文庫『世界の中心で、愛をさけぶ』
- 作者: 片山恭一
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2006/07/06
- メディア: 文庫
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バカ売れしたのにもかかわらず色々なところで賛否両論のこの小説。
勝手に先入観を抱いて読まず嫌いをしておりました。
文庫化を待って購入。即、読み終えました。
で、読んだ感想ですが、
予想よりは面白かったというのが第一印象。
自分が好きな人が病気になって死んでしまったら…
元気だった人が突然入院してしまう。
その人は病気のせいで日に日に弱っていくのです。
それを主人公はどうすることも出来ません。
ただ見守るだけ。
そして必死の闘病と看病もむなしく死んでしまう。
正常な神経でいられるだろうか。
果たしてその後の長い人生を生きることが出来るだろうか。
二人で行った場所。
二人で見ていた景色。
二人で聴いた音楽。
二人で過ごした部屋。
二人で共有していたものやら記憶だけを残して、その人はいなくなってしまうのです。
残されたものが多いほど、世界は色を失います。
この世界で一人で生きるのか。
油断すると涙が出そうでした。
私が中学生だったら泣いていたかもしれません。
◇ ◇ ◇
しかし大人の私には…
結論を言うと、
実に惜しい作品でした。
舞台設定の良さ(地方都市、学校生活、幼なじみの白血病、海外)に、作者の小説家としての能力(表現力、展開力、文章の力強さ)が追いついていない。二人のエピソードの中でもっと心の変化や感情の流れを書くべきだし、オーストラリアはもっといかすことができる設定だと思います。最後の方ももっと書いてほしいと思いました。せっかく素晴らしい設定を考えたのに、それを十分に生かせていない。残念。
◇ ◇ ◇
『世界の中心で、愛をさけぶ』は、もともとは、『恋するソクラテス』というタイトルで世に出るはずでした。しかしある編集者の思いつきで、このタイトルになりました。結果的にこの本はベストセラーとなり、映画にもなり、テレビドラマ化され、大成功を収めました。
好きな人の死をどのように迎え、どう乗り越えていくか。
重いテーマだと思います。
だが肝心の、小説としての出来が追いついていない。
しかもタイトルが内容とずれている。
『世界の中心で、愛をさけぶ』というタイトルはふさわしくなかったと思います。
しかし不幸にもそれによって売れてしまった。
改めて、惜しい作品だと思います。