『ガール』奥田英朗・著
クラシックは一寸お休み。
こう暑いとプールに泳ぎに行ったり、ラジオ体操に行ったり、セミを捕まえに行く元気もない。
家の中で寝転んで本でも読んで過ごしたい。
そんな日の私のひそかな楽しみは、ベストセラーになっている本を片っ端から買い込んで、クーラーをきかせた部屋で寝ながら読むということ。
ベストセラーだからといって全てが面白いわけでは当然なく、はっきり言って「玉石混交」だが、「玉」が時々混じっているから、この楽しみはなかなかやめられない。
そんなときに、amazonで注文していた本が来た。
今日書きたいのは『ガール』という本。
- 作者: 奥田英朗
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2006/01/21
- メディア: 単行本
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この本、大学の時の先輩のLさんが良いといっていたので買った。結構売れているので読まれた方は多いと思う。
この本は50ページくらいの作品が5つ収録された短・中篇集だ。
主人公は全てが女性。
独身OLであったり、シングルマザーのOLだったり、境遇は様々だが、30代で仕事をしている女性というところが共通する。
ローンで家を買うとか、子育てをしながら営業の仕事をするとか、クライアントの女性と火花を散らしたりとか、社内の派閥争いに巻き込まれたとか、ありふれた悩みにとらわれながらも健気に生きていく女性の姿を描いている。
この小説の優れたところは、日常を描いた上手さだ。
小説を描く素材はいっぱいある。
でも、面白い小説がそうそう生まれないのは、面白い素材を言語化するセンスを持った人が少ないからだ。
作者は、そのセンスが抜群だ。
気づきの着眼点と文体のリズム感がとてもすぐれていると思う。
「女房とホステスと部下しか女を知らない体育会系の社員」
―いるいる。こういう男は、異性のライバルやキャリアウーマンを認められない。
「生涯一ガール。きっと自分もその道を行くのだろうと、由紀子は思った。この先結婚しても、子供ができても。」
―的を射た表現に膝を打つ。
若いと思っているうちに結婚も貯金もできないまま30代を迎え焦り出す。
何年か前に「負け犬」とかいう言葉が流行った。
でも「負け犬」には、様々なそれぞれのストーリーがあり、バリエーション溢れるそれらのストーリーはそんな陳腐な記号では表せないことを、『ガール』は教えてくれる。
これらは、きっとどこにでもある光景だ。
◇ ◇ ◇
「ガール」が指す意味はとても広がっていると思う。
年齢ではなく姿勢だ。
私は男だが『ガール』にとても共感した。