明るい!?ショスタコーヴィチ
クラシック作曲家の三大ネクラは、ブラームス、チャイコフスキー、ショスタコーヴィチではあるまいか。それでもチャイコフスキーの場合は、泣き節が大げさな上、メロディーが甘美なので深刻さが減じているが、救われないのはショスタコーヴィチだ。後期の弦楽四重奏曲を聴いてごらんなさい。もう、生きていくのがいやになる。(講談社現代新書『新版・クラシックの名曲・名盤』宇野功芳著より引用)
ドミートリイ・ショスタコーヴィチ(1906年9月25日-1975年8月9日)は、「社会主義」ソヴィエト連邦を象徴する作曲家だ。
体制と理想との間で悶え苦しんだ作曲家ショスタコーヴィチ。
「社会主義」という理想と裏腹に、ソヴィエト社会は密告社会だった。
ショスタコーヴィチの作品は、「社会主義」リアリズムの路線に沿った作品であると国家よりお墨付きを与えられたり、反対に、作品によっては、ブルジョア的、退廃的であると批判された。
史上最悪の独裁者の一人であるスターリンの指導の下、生命の安全すら危惧された境遇で、その恐怖は計り知れない。
体制と理想の間で悩み苦しみながら、社会的な制限の中で、最大の理想を追い求めた音楽家がショスタコーヴィチだ。
私はショスタコーヴィチという作曲家にとても興味がある。
彼の人生は、国家と体制が個人の内面にまで入り込んできた時代を象徴するように思え、その作品は、特殊な状況下における人間の孤独な内面の戦いを暗示しているように思えてならないからだ。
彼の作品がネクラであるのは当然のことで、逆に明るかったりしたら、現在、彼の膨大な作品を私たちが楽しむこともできないはずだ。
◇ ◇ ◇
- アーティスト: シャイー(リッカルド),ショスタコーヴィチ,ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団,ブラウティハム(ロナウド),マスーズ(ペーター)
- 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック クラシック
- 発売日: 2006/04/12
- メディア: CD
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そんなネクラなショスタコーヴィチが、明るい作品を残している。
それが、ジャズ組曲だ。
このCDには、第1番と第2番が収録されているどちらも名曲だ。
中でも「プロムナードオーケストラのためのジャズ組曲第2番」のワルツ。
この曲は、スタンリー・キューブリックの遺作・映画『アイズ・ワイド・シャット』のテーマとして使われた。
優雅な旋律。まるで舞踏だ。
禁欲的な曲に収まりきらない、そこから溢れ出る退廃の香り。
ソヴィエト体制の下で、交響曲第5番を作曲した同じ作曲家とは思えないほど、この曲にはロマンティシズムが溢れている。
ショスタコーヴィチという人物、その音楽性には興味が尽きない。
その世界はどこまでいっても深淵だ。
◇ ◇ ◇
19世紀のナポレオンのロシア侵攻という歴史的事件をむかえる貴族社会の様子が描かれている。
来るべき戦争に対してもどこか他人事な社交界の空気。
トルストイの描写はとても精緻で、優雅な社交界の姿が目に浮かぶ。
この曲を聴いて連想されるのはそんな空気だ。
時代はだいぶ違うが、一言で言うと、「ロシア的」という言葉に尽きると思う。
「ソヴィエト連邦」を象徴する作曲家、ショスタコーヴィチの音楽に「ロシア」の残り香が感じられる。