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慎重派・ブラームスの交響曲


ヨハネス・ブラームス1833年5月7日-1897年4月3日)は筋金入りの慎重派だ。


声楽曲や器楽曲、協奏曲の作曲家として、既に一廉(ひとかど)の活躍をしていた彼が最初の交響曲を完成させたのは随分と遅かった。


交響曲第1番は、およそ20年の歳月をかけて、1876年に完成した。ブラームス43歳のときだ。

ひとつの作品を完成させるのに20年もかかっている。


ブラームスは第1番を書いた後、相当、肩の荷が下りたのか、およそ4ヶ月で第2番を書き上げている。

その後、最後の交響曲である第4番までは、数年という比較的短い期間で書かれたことを考えると、

ブラームスが初めて取り組む交響曲というジャンルに、並々ならぬ意欲で挑んだことが見てとれる。


このジャンルの先駆者・ベートーヴェンの業績を十分に意識しながら、それを継承できるような作品に仕上げたい。

そのプレッシャーを感じさせる20年という歳月だ。


しかしその甲斐あって、ブラームス交響曲第1番は超!怒(ド)級の完成度を誇る。

秀作的な要素はまるでなく、「暗」から「明」にいたる道筋の自然さといい、オーケストラの重厚な魅力といい、寸分の隙もない、傑作に仕上がっている。

多くの作曲家にとって、最初の交響曲が、その後の作品と比べ、処女作として割り引いた評価をされているのと対照的だ。


これは相撲に例えると、新入幕の力士がいきなり横綱相撲をとるようなものだ。


交響曲作家としての出発点から、意思的に歩んでいこうという姿勢が強く伝わってくる。


◇  ◇  ◇


慎重派・ブラームス交響曲はすべてが傑作だ。

ファン投票をしたら、4曲すべて同じくらいに票が割れるのではないだろうか。


私はいまは、

2番>1番>4番>3番の順で好きだが、

ブラームスを聴きはじめたころは、

1番>3番>2番>4番だった。

ベートーヴェンの交響曲全集でもそうだが、この順位は容易に変動するので、1ヵ月後には変わっている可能性が高い…。


◇  ◇  ◇


ブラームス交響曲を味わうには、全集が良い。

ひとつひとつじっくりと聴いていくとよい。

ゆっくりと好きな作品を探していくのに、これからの秋はぴったりだ。

しかもブラームス交響曲には、秋から冬を連想させる曲想のものが多い…。


(旧盤)

ブラームス:交響曲全集

ブラームス:交響曲全集

(新盤)

ブラームス:交響曲全集

ブラームス:交響曲全集


私がお勧めしたい全集は、ギュンター・ヴァント指揮の全集だ。

同じ指揮者、同じオーケストラによる新しい演奏で、新盤も出ているが、私は旧盤の方が好きだ。

CDリマスタリングの力もあって旧盤の方が音が良いし、演奏の精度も高いような気がする。

これはスタジオ録音(旧盤)とライブ録音(新盤)の違いによると思う。

新盤は、表情を無理につくろうとして破綻しかけている箇所が多少見られる。

(しかしそれでも私はこのヴァントという指揮者が好きなので、どちらも好んで聴いている。)


旧盤は並々ならぬ完成度だ。

全体的に速いスピードの演奏なのだが、せっかちな印象はない。

これはテンポが揺らがずにずっと一定だからだろう。

すごい精度だ。

それぞれの楽器の入り方も理路整然としていて、頭の中に楽譜が浮かぶようだ。

高密度の演奏を聴かせてくれる。


濃縮還元ジュースのような演奏だ。


特に第1番は最高だ。

ギチギチに練りこまれた仕掛けが最後に大爆発するという、第1番の魅力を最もよく表わしている演奏だと思う。


そろそろ秋。

ブラームスを聴きたい季節がまたやってくる。


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