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ベートーヴェン・交響曲第3番「英雄」


ベートーヴェンは、交響曲第3番に、当代の英雄的な人物ナポレオン・ボナパルトへの共感から、当初「ボナパルト」という標題を予定していた。


しかし市民の英雄であったナポレオンの皇帝即位に、ベートーヴェンは憤慨し、「ボナパルト」という文字を消し、「エロイカ(英雄)交響曲、ある偉大な人物の思い出に捧ぐ」という標題へと変えた。ベートーヴェンの伝記の中に必ず登場するエピソードだが、真偽の程は不明だ。


むしろ真偽の云々よりも、ナポレオンという稀代の人物の皇帝即位という出来事が、民衆にいかに大きな衝撃と失望をもたらしたかを語るエピソードである。


ともかく「英雄」という標題を持った素晴らしい交響曲が私たちの前に残されている。


◇  ◇  ◇


規模(長さ)は、1番と2番を大きく超える1時間以上という長さで、これは交響曲作曲家としての先人ハイドンモーツァルトと比べると、同じジャンルと思えないほどの大きさだ。


また、第二楽章に葬送行進曲を持ってきたり、第3楽章にスケルツォを配置するなど、構造上もかなり前衛的な試みを行っている。


アバンギャルドで、荘厳で、華麗で、しかも人間らしいドラマに溢れた、勇ましい曲だ。


長さだけでなく、音楽の内容や精神的な深さでも、ベートーヴェン交響曲の中でもベストを争う曲だ。


◇  ◇  ◇


この交響曲第3番は、これまで、「英雄」らしく、勇ましく、どっしりと重々しく演奏されることが多かったが、私が一番好んで聴いているのは「軽い」ノリントン指揮のCDだ。


ベートーヴェン:交響曲全集 vol.2

ベートーヴェン:交響曲全集 vol.2

ノリントンは、ノン・ビブラートのピリオド奏法の演奏を特徴とする「古楽器系」指揮者*1であったが、シュトゥットガルト放送交響楽団の首席指揮者になってからは、ピリオド奏法を現代の楽器に適用した演奏法で、モーツァルトベートーヴェンなどの古典的な音楽から、シューマンブラームスなどのロマン派音楽、さらにはブルックナーマーラーまで、つまり古典から現代に向かってレパートリーを広げている。まさに才人という言葉がピッタリと当てはまる英国人指揮者だ。


私は、ノリントンの前回の来日の際、ベートーヴェンの5番を聴いて以来、立ち上がれないくらいの感銘を受けたが、この3番のCDも同様の感動を得られる。


確かに「軽い」。しかし楽器のパートの演奏は鮮明で、その分、他のパートとの対比が浮き彫りとなる。

楽譜がどうか書かれているのか想像できるくらいの見通しの良さで、前衛的な音楽が迫ってくる。

5番「運命」と同様、異常な緊密さで曲が構成されていることがわかる。

手に汗を握る「英雄」だ。


好き嫌いがあることを承知で、ノリントン盤を挙げる。


もう一枚はバレンボイム盤。

ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」

ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」

ノリントンとは正反対の伝統的な「英雄」だ。当たり前のように、「英雄」らしく、勇ましく、大きく、どっしりと重々しく演奏されている。英雄らしい英雄を聴きたい人にはこちらだ。


今日挙げた2枚は、大阪と東京くらい違う。


政治に例えると自民党共産党くらい違う。


うどんとそばくらい違う。


トヨタとホンダくらい違う。


iPodウォークマンくらい違う。


仏教とキリスト教くらい…


仏教とキリスト教ほどは違わない。


…ともかく、同じ曲でも指揮者とオーケストラによってこれくらい違うということを実感する2枚のCDだ。


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*1:1980年代に古楽器ブームがあった。代表的指揮者はブリュッヘンガーディナー