ロンドン旅行(2)〜大英博物館とナショナルギャラリー
ロンドン観光のハイライトは今も昔も大英博物館で変わりないだろう。18世紀の開館以来どれほど多くの人が訪れ、知的影響を受けてきたのか。
膨大な展示は詳細に見ていくと2〜3日では足りず、駆け足で大雑把に見るとぜんぜん心に残らないという、観光客にはとても厄介な代物だ。全部見るためには移住(!?)でもしないと困難だ。
個人旅行とはいえ、今回のように開館〜午後2時くらいまでのわずかな滞在時間では、エジプトやギリシャ・ローマ、アフリカの少しと、日本ぐらいしか見ることができなかった。
ロゼッタストーン、ミイラの部屋などの人気の展示室は身動きが困難なほどの人手だった。
◇ ◇ ◇
ナショナル・ギャラリーは、ヨーロッパの美術館の中でも私が大好きな美術館のひとつだ。多岐に渡る膨大で優れたコレクションを誇り、ここを鑑賞して歩くのは、まるで西洋美術史という大河を下っていくかのようだ。
■ナショナルギャラリー
まずレオナルド・ダ・ヴィンチの傑作2点。『岩窟の聖母』はパリのルーブル美術館の同じ作品と対になっている。絵が霊的な力を持っているみたいに、足を止められる。
英国。ゲインズバラ。ターナー。コンスタブル。コンスタブルの明るい色彩と牧歌的な雰囲気と、ターナーの激しい筆遣いと曖昧な色彩。スタイルはそれぞれだが、英国の風景画は、季節や天候、風景の微妙な移り変わりを描いている。一筋縄では描ききれない機微・複雑さが絵からにじみ出ていて、スコッチウイスキーのような燻した香りが感じられて、私はとても好きだ。
印象派前後。モネの『睡蓮』。切り裂かれたマネの絵。ルノワール。ドガ。スーラ。アンリ・ルソー。ゴーギャン。セザンヌ。ゴッホの『ひまわり』と『椅子』。黄色が眩しい。力強い。『ひまわり』の前には人だかりができている。これだけ多くの作品の中でパッと目を引くのがゴッホの作品だ。まるで昨日塗られたような鮮やかさに圧倒されるのか。
オランダ。ルイスダール。ホッベマ。ホーホ。ルーベンス。ヴァン・ダイク。フランツ・ハルス。そして巨人・レンブラント。自画像に歴史画。レンブラントの生の迫力と感動は、文章ではちょっと表現しがたい。とても「ありがたいもの」と、敬服するしかない。
◆レンブラントの『ベルシャザルの祝宴』
(↑画像はhttp://www.rembrandtpainting.net/index.htmより)
フェルメール。ミステリアスで寡作の画家。
◆『ヴァージナルの前に座る女』 ◆『ヴァージナルの前に立つ女』
(以下の画像も全てWikipediaより)
ナショナルギャラリーにフェルメールの絵は、『ヴァージナルの前に座る女』と『ヴァージナルの前に立つ女』の2点あるはずだが、前者だけが展示されていた。後者は見当たらなかった。この2点はどちらも後期の作品で、絵画技法から両者を比べると後者の方が優れると言われているが(前者は素人目に見てもかなりのディフォルメがわかる)、私は前者の方が好きだ。モデルの戸惑った、ある種ひょうきんな表情がなんともいえない。
ルーベンスの『シュザンヌ・フールマンの肖像』は、私がこの美術館の作品の中で最も好きな絵の中の一つだ。ルーベンスと言うと、筋骨隆々とした、生命力に溢れた人物たちが闊歩する、ドラマチックな歴史画・神話画を思い出すが、こちら絵は普通の肖像画だ。しかし肖像画であってもルーベンスならではの筆の荒々しさが見られる。大作ではないが、青色をはじめとする原色の鮮やかさとモデルのやや陰のある表情が良いと思う。
◆『シュザンヌ・フールマンの肖像』
フランス。ブーシェ。クロード・ロラン。ダヴィッド。アングル。プッサン。
ゴヤ、ベラスケス、ムリーリョなどスペイン絵画。
イタリア。ピエロ・デラ・フランチェスカ。ウッチェロ。ティツィアーノ。コレッジオ。ティントレット。ジョルジョーネ。フィリッポ・リッピ。ボッティチェッリ。ミケランジェロ。ラファエロ。ヴェロネーゼ。沢山。
18-19世紀のドイツの画家、フリードリヒ(カスパー・ダーヴィト)の絵はナショナルギャラリーに一枚しかないのだが、忘れられない傑作だ(→適当な画像がなかったのでフリードリヒの絵はこちらを参照)。フリードリヒの絵を見ると「孤高」という言葉が私には一番ピッタリくる。ドイツ・ロマン主義の象徴的な存在で、精緻な風景画の中に神秘性と気高さが感じられて、私はとても好きだ。
- 作者: ノルベルト・ヴォルフ
- 出版社/メーカー: タッシェン・ジャパン
- 発売日: 2006/12/20
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- クリック: 22回
- この商品を含むブログ (12件) を見る
フィンランドの画家、ガレン=カレラの作品『ケイテレ湖』。調べると、同国の作曲家のシベリウスと同じ年に生まれた画家とある。あまり知らなかった画家だがこの、一枚の傑作に惹きつけられる。
圧倒的なコレクションに言葉を失う。「見事」を通り越して唖然とする。ほとんどの絵にはガラスすらなく、絵の具の凹凸もわかり、往年の画家たちの筆遣いから彼らが生きた痕跡が感じ取れるほどだ。とても贅沢なことだ。
ただこの空間にいて、雰囲気に呑まれ、いつまでも永遠に絵を見ていたい気分だった。西洋美術史の大河を下流から上流へ上ったり、特定の場所だけを繰り返して泳いだり、あてもなく漂流したり、などなど、鑑賞の仕方も自由だ。こんな美術館がある生活というのはとても豊かな生活だと思い、ロンドン市民を羨ましく思った。
ナショナルギャラリーも大英博物館も入場無料だ(ただし寄付は受け付けている)。こういう豊かな文化資産を市民や世界に対し無料で開放している点は大変に素晴らしい。
(↓面白かったらブログランキングに応援のクリックよろしくお願いします。)