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ベームの『魔笛』


モーツァルトの4大オペラ(『フィガロの結婚』、『ドン・ジョバンニ』、『コジ・ファン・トゥッテ』、『魔笛』)のなかで、一番親しみやすいのは『魔笛』ではないだろうか。


フィガロの結婚』はやや長く意外にややこしい。『ドン・ジョバンニ』はバッドエンドで大人向け。『コジ・ファン・トゥッテ』は歌は素晴らしいが最近まで軽んじられてきた。


そんな中で、『魔笛』は子供から大人まで安心して楽しめる、良質なファンタジーオペラだと思う。


魔笛』がそもそもの成り立ちがオペラというよりも、庶民向けのジングシュピール(歌芝居)という形で書かれたのと、イタリア語ではなくて庶民向けに母語、つまりドイツ語で書かれたと言うことも関係しているのかもしれない。


しかしそんな『魔笛』にもややこしい部分があって、それはモーツァルトも会員だったと言われるフリーメイソンの教義や儀式が盛り込まれている部分で、例えば、作中で、夜の女王の3人の侍女、3人の童子、3人の僧侶など、フリーメイソンの狭義で大事な「3」という数字がことのほか重要視されている。高僧ザラストロの登場以降にフリーメイソン的な要素を見せる場面が多い。


また、第1幕と第2幕で、敵と味方が入れ替わってしまう点も変わっていて興味深い点だ。書いている途中で脚本家の気が変わってしまったのか、モーツァルトの注文なのかよくわからないが、こんな点も『魔笛』の魅力をより高めている。


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第1幕。舞台は明らかではない。でも中東か北アフリカ、エジプトかどこかだろう。主人公の王子・タミーノは、魔物(大蛇)に襲われているところを夜の女王の3人の侍女に助けられる。タミーノは侍女が持っていた絵姿を見て一目惚れをする。そこに描かれていたのは夜の女王の娘パミーナで、いま邪悪な怪僧ザラストロのもとに囚われているという。そこに夜の女王が現われ、娘パミーナをザラストロのところから取り戻して欲しいと言う。王子に同行することになった鳥刺しパパゲーノ、ザラストロの手下で様々な悪事を働いているモノスタトスも登場する。鳥刺しパパゲーノはモーツァルトが最も愛したキャラクターで、自然児として好意的に描かれている。


第2幕では、逆に夜の女王が悪者と言うことになっていて、ザラストロは夜の女王の悪い影響から引き離そうとパミーナを手元に置いている。ザラストロは身分の高い高僧で、本当の悪者は夜の女王の方だ。ザラストロは、タミーノと同行のパパゲーノに試練を与える。「沈黙」、「火」、「水」の試練だ。「沈黙」の試練は最も辛く、愛しいパミーナにせっかく会えたのに話すことができない。口を開いてくれないタミーノに対しパミーナも絶望する。その後、「沈黙」の試練に打ち勝ったタミーノとパミーナはともに「火」と「水」の試練に挑む。かわって鳥刺しのパパゲーノ。パパゲーノは「沈黙」に耐え切れず、禁を破ったため理想の恋人・パパゲーナに会えなくなってしまう。パパゲーノは傷心のあまり首を吊ろうとする。しかし魔法の鈴を鳴らすと、最愛のパパゲーナが現われ、2人もまた結ばれる。その後、夜の女王とモノスタトス(第2幕ではこちらに加担している)が襲来してくるが、逆に光に打ち負かされ消え、最後は一同の合唱でハッピーエンドのうちに幕を閉じる。


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こうして改めてあらすじを書くと、なんだか荒唐無稽の話のように感じられるが、全体的にはファンタジー色に塗られていて、非常に親しみやすい音楽もあって、退屈させないオペラとなっている。

魔笛』の主な登場人物

・タミーノ…王子   ・パミーナ…夜の女王の娘
・パパゲーノ…鳥刺し ・パパゲーナ…パパゲーノの理想の恋人
・ザラストロ…高僧  ・夜の女王
・モノスタトス…ザラストロに仕えるムーア人
・3人の侍女…夜の女王に仕える
・3人の童子  ・3人の僧侶


◇  ◇  ◇


魔笛』は、名曲揃いのモーツァルトのオペラの中でも名曲の嵐で、ざっと挙げるだけでも、


パパゲーノのアリア「私は鳥刺し」、タミーノのアリア「なんと美しい絵姿(絵姿のアリア)」、


パパゲーノ、タミーノ、3人の侍女による五重唱「ム!ム!ム!ム!」。


第2幕でのパミーナのアリア「ああ、私にはわかる」、


夜の女王の2曲のアリアは超高音で、コロラトゥーラ・ソプラノのための超絶技巧のアリア。全曲通してもっとも演奏効果の高い名曲といえる。


ザラストロのアリア「この聖なる殿堂では」 は、対照的に最も低い声で歌われる。


中でもいちばんのハイライトはパパゲーノとパパゲーナの出会いの場面だろう。フィナーレ間近の場面の曲で、「パ・パ・パ」という親しみやすい旋律に、何度聴いても「よかったなあ」と共感する。


CDは、ベーム盤が私の思い出のCDだ。


モーツァルト:魔笛 全曲

モーツァルト:魔笛 全曲


フリッツ・ヴンダーリヒの演じる若々しいタミーノが素晴らしい。ドラマチックで迫力があって艶も感じられる。王子というキャラクターがピッタリで、このCDではまさに全盛期。早世が惜しまれる(35歳で事故死)。これ以上のテノールが今後出現するだろうか。そしてフィッシャー=ディースカウのパパゲーノは理知的過ぎるという声もあるようだが、私はこれに慣れてしまった。他のパパゲーノがいかにも緩く感じられて馴染めない。ベームの振るオーケストラも素晴らしく、ゆったりとしたテンポで、歌心が感じられる音楽作りに好感がもてる。


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