ミハイル・プレトニョフのベートーヴェン交響曲全集
指揮者でピアニストのミハイル・プレトニョフによるベートーヴェン交響曲全集を聴いている。
オーケストラはプレトニョフ自身が音楽監督を務めるロシア・ナショナル管弦楽団で、このCDは2006年にモスクワで録音され、2007年に発売されたものだ。
- アーティスト: プレトニョフ(ミハイル),デノケ(アンゲラ),タラソワ(マリアンナ),ヴォトリヒ(エンドリク),ゲルネ(マティアス),モスクワ室内合唱団,ロシア・ナショナル管弦楽団,ベートーヴェン
- 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック クラシック
- 発売日: 2007/09/26
- メディア: CD
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「ベートーヴェンはよく霊廟のように演奏される。たぶん尊敬の念からされているのだと思うが、このようなアプローチの否定的な面は、彼がもう生きている人間ではないようだということである。私にとってベートーヴェンは生きている。なぜなら、彼の音楽は活気があり感情にあふれ、共感できるからである。私の目標は、すべてのフレーズ、すべての絶叫、すべての喜びの瞬間が、私たちの命を通して生きることが出来ることだ。」ミハイル・プレトニョフ(『ユニバーサルクラシックス』の公式ページより引用)
…と、かなり刺激的なことを言っている。
はっきり言うと、このCDは、ロシアの才人・プレトニョフによる「やりたい放題」の全集だ。テンポはめまぐるしく変わり、異常に速いフレーズや「編曲」している部分などもあって、拒否反応を示す人もいるかもしれない。
◇ ◇ ◇
以下、聴いた印象を寸評風にまとめてみた。
1番。意外にフツー。重厚な音色で良い。フィナーレも盛り上がる。
2番。1番と同じ路線。分厚い音を堪能できる。軽く流さないところが良い。
3番「英雄」。このあたりから個性が強く出てくる。テンポの振れ幅激しい。迫力ある演奏。重厚だがキレもある「英雄」。
4番。やる気がこもった熱い演奏。全体を通して打楽器の迫力が見事。
5番「運命」。第1楽章からテンポ設定をいろいろ試しているが、効果的かといわれると???。フィナーレはクライバーの指揮のように陶酔的で速い。しかし演奏上の工夫があまり目立たない。曲自体が完成されすぎているからだろうか。しかしどんな演奏も受け入れて聴く人を引きずりこむ魅力をこの曲は持っている。
6番「田園」。全集中最大の「問題作」。快速テンポの第1楽章。倍速の速さだ。こんなに速い演奏には初めて出会った。私はゆったりとした「田園」の方が好きなのだが、全体的に爽やかに仕上げられていて、こういう演奏も時には楽しめると思った。
7番。第2楽章がとても神妙に演奏されている。フィナーレは予想の通り相当速い。際立つのはリズムの面白さだ。ワーグナーが「舞踏の聖化」と表現したように、この曲に初めて出会った当時の聴衆の驚きが窺える。
8番。第4楽章はまるで7番のように軽快に演奏される。
9番「合唱つき」。5番と並んでそれほど印象は残らなかった。合唱も規模が足りないような印象を思えた。終楽章の最後の最後のティンパニの独特な動きに驚く。
曲自体の好みを別にすれば、私は全体的には1番、2番、4番が良いと思った。
指揮者の個性的なテンポ設定に忠実についていき、快速スピードに破綻しないなど、オーケストラの演奏能力は全体的に高く、特に金管と打楽器の強さにロシアのオーケストラらしい個性を感じる。
好き嫌いは分かれそうだが、音楽家としての提案に満ちた演奏なので、演奏の一つとして、じゅうぶん聴く価値のあるベートーヴェン交響曲全集であることは確かだ。
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