キース・ジャレット×モーツァルトのピアノ協奏曲
キャリア、実力、年齢から言って良く比較されてきた、(もはや大御所の)3人のジャズ・ピアニストについて、「誰が一番すぐれているんでしょう?」と、ジャズを演奏する人に質問したときに、こんなふうに教えてもらったことがある。
「ロック、ファンク的な意味では、ハービー・ハンコック」、
「ラテン的な意味では、チック・コリア」。
この答えには納得した。
ジャズはその歴史の始まりの頃には、テクニック面で(経歴でも)甚だ怪しいピアニストが多数いたが、最近のジャズミュージシャンは「音大を出ている」。
キース・ジャレットもそんな例に漏れず、「きちんとした音楽教育を受けた」という強みを持っている。テクニック的に申し分ない。
溢れ出るアイディアと、思わず出てしまう唸り声(「アイーン」とか「ウウーン」とか、独特の唸り声がCDにも入っているので、これに拒否反応を示す人もいる)。赤面すれすれの甘いメロディ。悪ノリ。時々、神が見えるような、あまりに完成度の高いアドリブ。
これらの特質がクラシックではどうなるのか。
Mozart: Piano Concertos nos. 271, 453, and 466 / Davies, Jarrett
- アーティスト: Wolfgang Amadeus Mozart,Dennis Russell Davies,Stuttgart Chamber Orchestra,Keith Jarrett
- 出版社/メーカー: Ecm Records
- 発売日: 1999/10/05
- メディア: CD
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ジャズ・ピアニストであるキース・ジャレットが弾くモーツァルト。このCDには、ピアノ協奏曲9番「ジュノーム」、17番、20番が収録されている。
聴く前はイロモノかと想像していたが、極めてオーソドックスな演奏となっていて、逆にビックリした。
一言でいうと「端整」。アーシーでもファンキーでもない。「拝啓−敬具」があって、楷書で丁寧に書かれた手紙のように、伝統的で、整った演奏。安心して聴くことが出来る秀演だった。もちろん、「唸り声」はない。
やや粘り気のある音色が、独特のロマンティシズムを感じさせる。1960年代くらいの録音にありそうな感じ。少し甘くて、夢があって、腰のすわりがある。最近のモーツァルトのコンチェルトの演奏とは少し趣が違う。カデンツァにもオリジナリティがあって興味深い。
D.R.デイヴィスの振るオーケストラの演奏もそつなくまとめている。というより、かなり良い演奏。大真面目で優雅な演奏だ。
9番「ジュノーム」、20番も良いが、17番の演奏が最も優れている。私はこの曲が大好きなのだが、このCDの演奏は、愚直で、真摯で、人間的で温かい演奏となっていて、とても満足した。20番以降の傑作群に勝るとも劣らない名曲ぶりが如何なく発揮されている。
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