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フィリップ・ヘレヴェッヘ×ロイヤル・フランダース・フィル


四年に一度のヨーロッパサッカーの祭典、EURO2008が開幕して、調子に乗って夜更かしして観ていたら早速、寝不足になった。イタリアか、ドイツか、フランスか、スペインか、あるいは他の国か、どこが優勝するか予想しようかとも思ったが、こういうものは当たったためしがないので、心の中にしまっておくとして、今後繰り広げられるであろう熱戦を楽しみにしたい。


今日は、フィリップ・ヘレヴェッヘが率いるロイヤル・フランダース・フィルの来日公演を聴きに、大阪のシンフォニーホールに行ってきた。


ヘレヴェッヘはフランスの「ハルモニア・ムンディ」レーベルからCDを何枚も出していて、幅広いレパートリーを誇るベルギーの指揮者。どれもが会心の演奏で、私が好きな指揮者のうちの一人で、実演に接することをとても楽しみにしていた。

2008年6月8日(日)14:00 ザ・シンフォニーホール


[指揮]フィリップ・ヘレヴェッヘ
[ピアノ]リーズ・ドゥ・ラ・サール
[管弦楽]ロイヤル・フランダースフィルハーモニー管弦楽団


[プログラム]
モーツァルト:歌劇「イドメネオ」序曲
モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番※

<アンコール>
ラフマニノフ前奏曲集よりハ短調op.23-7※

〜休憩〜

モーツァルト交響曲第40番
モーツァルト交響曲第41番「ジュピター」

<アンコール>
モーツァルト交響曲第41番「ジュピター」より第3・4楽章


http://www.asahi.co.jp/symphony/symphony2008/c20080608.jpg
(↑画像はシンフォニーホールのHPより)


客席の入りは悪かった。1階の正面席は8割くらい埋まっていたが、左右は5割くらい。2階にいたっては、左右も正面も、3割くらいしか埋まっていなかったのではないか。空席がかなり目立った。来日オケとはいえ、一般的な知名度が薄い指揮者(ヘレヴェッヘは相当な大物指揮者だと思うのだが)とオケ、ソリストとなるとチケットが売れないものなんだろうか。当日券もかなり残っていたようだ。


オーケストラの配置は対向配置で、5人のコントラバス奏者が舞台奥に一列に並ぶ、個性的な配置。そういえばこの配置は、昨年の大フィル&大植英次さんのベートーヴェン・チクルスで見たことがある。


イドメネオ」序曲は、弱音で消え入るように終わる。それほど親しみのある曲ではないが、主旋律の裏の細かい弦の動きがとても面白かった。こういう気付きは実演ならではで新鮮だった。


ピアノ協奏曲第20番はソリストとして、リーズ・ドゥ・ラ・サールが登場。「フランスが生んだ美貌のピアニスト」というふれこみだったのだが、本当に美少女だった。カデンツァがもっとも光っていた。テクニックは超絶テクといって良いほどで、飛び級で音大を卒業した経歴もなるほどと思わせる、まさに音楽の秀才という印象を受けた。あとで調べてみるとロシアの血も流れているということで、氷のように冷たい硬質なタッチはそんなルーツからも来ているのかと思った。アンコールのラフマニノフはお手のものという感じで、これがこのピアニストの本当の姿と気付かされるような演奏で、ロシアものだけのリサイタルと聴いてみたいと思った。


40番。モダンオケによるピリオド奏法。清廉な響きが曲によく合っていた。弦は適度に揃っていた。木管もよかった。こういうタイプの40番は過去に金聖響さんと大阪センチュリー響の演奏で聴いた記憶があるくらいだが、今日の演奏はさらに作為を感じさせず、ずっと熟練していた。


私だけかもしれないが、モーツァルト交響曲はあまりにも完成度が高いため、多くの曲で聴き終わったあとに感激するということがない。ロマン派の音楽だと、演奏の力の入り具合によって気分が高揚し感動することもあって、それは加点法で判断するということになるのだが、モーツァルトでは演奏に対する判断基準がとても高く、減点法で評価しがちである。駄目な演奏は本当に駄目で、途中や最後から良くなるということは絶対になく、逆に、すばらしい演奏に出会うと感激する前に感心して納得してしまう。納得できるかできないかのどちらかで、「良い」と「悪い」の2つしかない。その意味では、今日は非常にレベルの高い演奏で、納得できる「良い」演奏だった。


41番「ジュピター」。「ジュピター」は、クラシック音楽を聴きはじめた最初の頃は「真っ白で潔癖すぎる面白くない曲」と思って苦手な曲だったのだが、ブリュッヘンのCDを聴いて開眼した。だから今でもピリオド奏法以外の演奏は鈍重で野暮ったく感じられて仕方がない。


この「ジュピター」も最高の演奏だった。アプローチは他の曲と同様、ビブラートを抑えたピリオド奏法だが、オーケストラは現代楽器によるものなので、音に無理がない。この曲には「切れ」だけでなく「迫力」も必要なので、その点、余裕があった。骨格ばかりでなく、肉体も均整が取れていた。中声域が充実したサウンドと、切れ味のよいティンパニが素晴らしかった。


オール・モーツァルト・プログラムを堪能した。刺激的ではあるが、青さや若さを感じさせない、引き締まった、円熟の演奏だった。寝不足であったにもかかわらず、まるで眠くならなかった。


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