幻冬舎新書『カラヤン帝国興亡史』中川右介・著
本来なら、今夜はデ・ブルゴスが振ったドレスデン・フィルによるブラームスの1番と3番のコンサートのレポートを書くところだった。チケットを随分前に購入していたのだが、急遽仕事で行けなくなって、人に譲ったのだった。無念(明日の2番と4番は幸い行けそうだ)。
◇ ◇ ◇
こんな本を読んだ。
中川右介・著。『カラヤン帝国興亡史―史上最高の指揮者の栄光と挫折』。幻冬舎新書。
カラヤン帝国興亡史―史上最高の指揮者の栄光と挫折 (幻冬舎新書)
- 作者: 中川右介
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2008/03
- メディア: 新書
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2008年はカラヤン生誕100年のメモリアルイヤーで、カラヤンの誕生日を過ぎても(4月5日)、まだまだ復刻や新企画が後を絶たない。目白押しと言っても良いくらいで、衰えないカラヤン人気のほどが伺える。
指揮者・カラヤンというとまず、ベルリン・フィルを振ったCDで、ゴージャスで洗練された演奏が目に浮かぶ。私の地元は田舎で、レコード店にはクラシック音楽のCDというとカラヤンくらいしか置いていなかったので(この店はさらに、マーラーは「巨人」くらいしか置いていなかった)、最初に知った指揮者だった。
カラヤンは、20世紀のクラシック音楽界の中心人物として、「帝王」として君臨した。
中でも、1957年から1959年までの3年間はキャリアの中のハイライトで、ベルリン・フィルだけでなく、ウィーン国立歌劇場、ザルツブルク音楽祭、ウィーン交響楽団、フィルハーモニア、ミラノ・スカラ座の音楽監督か首席指揮者(実質的なものも含む)として、オーケストラを掌握していた。
フルトヴェングラーの死によって、後に控えるアメリカ公演の指揮者をどうするか動揺していたベルリン・フィルに対し、代役として自分へ声がかかることを知っていたカラヤンは「自分と終身契約を結ばないかぎりアメリカには一緒に行かない」と迫り、前代未聞の終身契約を結んだ。
自家用ジェットで世界を飛び回り、音楽監督を務めるベルリンにはホテル住まい。
カラヤンの人気はオーディオ・ビジュアルの進歩とも無関係でなく、その流れを積極的に推し進めた人でもあった。
ひとつの曲をリハーサルをして、その過程で録音をして、演奏会に臨んだ。世界中でCDが売れた。時間が経つと同じ曲を再度レコーディングした。また、CDと違って映像作品では、音を録った後に、レコードを流しオーケストラには演奏の真似をさせていたというのも、カラヤンの美学が伺える有名なエピソードだ。
先入観なしにカラヤンのCDを聴いてみると好き嫌いは別として、素晴らしいと思う。オーケストラは非常によく訓練され、揃っている。音も磨かれている。テンポはやや速め。スマート。演奏から受ける印象は、重厚さや盛大さ、力強さ。クオリティの高い音楽を聴かせる指揮者という感じだ。
毀誉褒貶の激しい人物だが、独特の美学をもつ、やはり傑出した指揮者のうちの一人に数えられる人物であったと思う。
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本書の帯のコピーが素晴らしい。
「かくも崇高、かくも俗物。帝王と呼ばれた男の知られざる素顔」。
本書では、カラヤンが全ての権力を手に入れて、全ての権力を失うまでの過程が描かれている。このことは「あとがき」でも触れられているが、著者はカラヤンの芸術にはあえて目を向けず、カラヤンの地位や立場に焦点をあてる。
「誰が誰を引き立てた」とか、「誰が誰を妨害した」などのドロドロした権力闘争が描かれていて、きっと著者はこういう世界が好きなのだと思う。
参考文献がほぼ、文献の資料だけに限られていて、当時を知る側近の証言(インタビュー)や意外な真実が少ない、という不満点があったものの、面白く読了した。伝記を読むような感覚で楽しめた。
当事者であるカラヤンの内面は想像するしかないが、これをもし描くならば、文学の世界になってくる。カラヤンを主人公にした小説があれば読んでみたいと思った。
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