ポリーニの『ショパン・リサイタル』
- アーティスト: ポリーニ(マウリツィオ),ショパン
- 出版社/メーカー: ユニバーサルクラシック
- 発売日: 2008/09/17
- メディア: CD
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ライブ録音で、プログラムは下記のように、オール・ショパン。
このCDのように、ある演奏家のリサイタルを丸ごと収録したCDを私はとても好きで、まるでその場にいたような贅沢な臨場感を、気分だけでも味わうことができる。どこにも出掛ける気にならない雨の日や、今日は無駄に過ごしてしまったなという日などに、充実を取り戻したいような気持ちで手に取る。
ポリーニは現在、66歳。ショパン国際コンクール優勝後の雲隠れとも言われた空白。その後の快進撃。そういえば、エチュードのアルバムの発売時には、完全無欠のテクニックから、「これ以上、何をお望みですか」という、半分挑発的な宣伝コピーがあった。それからウン10年。
4つのマズルカ、3つのワルツ、即興曲第2番は初録音。どれもすこぶる良い。若手の頃に評論家から「機械的で面白みがない」と評されたのが嘘のように、多彩で幅のある演奏だ。ただし聳え立つような厳しさは健在で、このあたりは「うん、やっぱりポリーニだ」と思う。何と言ったらよいか、高潔な魂を感じる。
現在のポリーニは、テクニックが全盛期に比べると落ちたと言われるが、私などにはとても気付かないレベルにある。逆に、とてつもないスケール、深さを感じる。
再録音のピアノソナタ第2番も、66歳の今でなければできないという老獪さで、第3楽章などは、これ以上美しいピアニシモがあるだろうかと思わせる、きわめて内省的かつ繊細な表現を見せる。小さいがとても存在感のある音で、美しい音楽と一体になったような幸せな気持ちになる。昔の演奏が聴き手を試すような凄味のある演奏だとすると、今の演奏は肯定に満ちた癒しの演奏だと思う。
聴き通すとずっしりとした満足感が残る。ポリーニの長年の研鑽が年輪となって刻まれたような、なかなか重いCDだと思う。