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中欧旅行(2)プラハ〜オペラとクラシック音楽の旅


プラハに到着した翌日からオペラ鑑賞の予定を入れていた。


オペラ三昧の旅行だった。オペラ三昧なんて、私でも「なんて贅沢な」と思うのだが、プラハでは、安い席では100コルナ(600円くらい)から買うことができるので、贅沢でも何でもなかった。しかし高価な席は5,000〜7,000円と、それなりに高価になる。多くの劇場では、席のランクによって、入り口からクローク、劇場内のバー、トイレまで違っていて、違うランクの席の客とは最初から最後まで顔を合わさない仕組みになっている。階級社会の名残というか、それでも支払った価格に応じた楽しみ方があるのかと思った。


チケットは直接、劇場のホームページでクレジットカードで購入して自分でプリントアウトしていくか、予約番号を発行してもらって自分で劇場の窓口に取りに行くか、等など、いくつかの方法で日本で事前に買うことができるので、とても便利だった。しかも手数料は無料だった(日本だと「電子チケットぴあ」で買うと、いちいち手数料とシステム利用料が発生するので、なんだか世知辛いなあと思う次第である)。


オペラ鑑賞の服装はどんなものがいいのか随分迷ったが、旅行にタキシードを持っていくわけにもいかないので(というより持っていない)、一着だけパリッとしたジャケットを持って、下もジーンズ以外の服装であれば、何とかなると思った。ジャケットの下はタートルネックのセーターである。他の観客の服装には、日本よりはタキシードなどのフォーマルな服装が多かったが、多くの人はスーツで、中にはジーンズの人もいないわけではなかった。しかし安い席でも正装の人もいた。ただ、ザルツブルク音楽祭などのライブを見るとほとんどの人が正装なので、見るイベントやプログラムによって考える必要があると思った。


■スタヴォフスケー劇場(エステート劇場)


モーツァルトが『ドン・ジョバンニ』を初演したことで知られる、由緒ある劇場。この劇場の前に立った時は感動した。感動のままに入ろうとすると、「まだ入れません(訳は推測)」とすげなく断られ、いきなり興が冷めた。旧市街広場などをグルグル歩いて時間をつぶす。プログラムは『偽の女庭師』。


 
 

スタヴォフスケー劇場
モーツァルト『偽の女庭師』


≪キャスト≫

市長: Jeffrey Francis  サンドリーナ: Simona Houda-Šaturová
ベルフィオーレ: Andrew Staples  アルミンダ: Marie Fajtová
ラミーロ: Annekathrin Laabs   セルペッタ: Kateřina Kněžíková
ナルド: Adam Plachetka  ***: Mireille Mossé
レチタティーヴォ: Zdeněk Klaud


指揮: Tomáš Netopil  舞台監督: Ursel Herrmann / Karl-Ernst Herrmann
演出: Ursel Herrmann / Karl-Ernst Herrmann
舞台デザイン: Karl-Ernst Herrmann  衣装デザイン: Karl-Ernst Herrmann


『偽の女庭師』は、天才・モーツァルトにしては若いころの作品ということもあって、ストーリー展開に無理があるうえに、冗長でダラダラ続く。とくに第二幕終わりから第三幕全体はかなり苦しい感じだ。

ただしこのオペラ、音楽的にはモーツァルトらしい素晴らしいアリアがいくつもある。

主役サンドリーナ役のSimona Houda-Šaturováは実力派で上品でリリカルな声だった。市長役のJeffrey Francisは安定感抜群で力強かった。あとは、アルミンダ役のMarie Fajtováがとても良かった(おまけにこの人は大変に美しい)。Mireille Mosséは小人役で、幕の初めに教訓的なセリフがあって、これが内容を象徴するような演出だった。この演出がなかったらより単調なものになったかもしれない。あと演出で言うと、木々が一斉に倒れたり、舞台正面に池を設置したり、変化に富んでいた。衣装もスーツにネクタイなどの現代的なものだった。

オーケストラは小編成。悪くはなかったが、燃えてはいなかったし、ちょっとルーチンワークを感じさせた。上の方の席だったので、終演直後に携帯電話の電源を入れる団員の姿が見えた。



長いオペラが終わった後の食事がおいしい。チェコと言えばビール!ビアホールは夜11時くらいまで開いているので何とか間に合う。これはグーラシュという料理で、もともとはハンガリー料理だが、中欧全般でポピュラーな料理。ビーフシチューみたいで、おいしい。ビールが進む。


■国民劇場



チェコ人が民族の誇りをかけて作った劇場。プログラムはスメタナの『売られた花嫁』。


 


チェコの人にとってスメタナの作品が上演されるというのは、特別のイベントなのだろうか。この演出の初演でもないはずなのに、開演とともに超満員となった。民族衣装に身を包んだ人もたくさんいた。

国民劇場・スメタナ売られた花嫁


≪キャスト≫

クルシナ: Ivan Kusnjer  ラドミラ: Yvona Škvárová
マジェンカ: Pavla Vykopalová
ミーハ: Aleš Hendrych  ハータ: Lenka Šmídová
ヴァシェク: Jaroslav Březina
イェニーク: Tomáš Černý  ケツァル: Luděk Vele
サーカスの座長: Vladimír Doležal
エスメラルダ: Kateřina Kněžíková  インディアン: František Zahradníček


指揮: David Švec  舞台監督: Magdalena Švecová
舞台デザイン: Petr Matásek  衣装: Zuzana Přidalová
合唱指揮: Pavel Vaněk  バレエ振り付け: Ladislava Košíková
演出:Ondřej Hučín


バレエありサーカス(!?)ありのエンターテイメント性抜群のとても楽しいオペラだった。満員の観客に応え、オーケストラもかなり気合が入っていた。


歌は、マジェンカ役のPavla Vykopalováが素晴らしかった。素朴で可憐で牧歌的で、この役にぴったりだった。かなりの実力。あとは結婚仲介人ケツァル役のLuděk Veleがよかった。声が個性的でよいのはもちろんだが、机付きの自転車に乗って登場するなど(忙しさをコミカルに演出している)、演技が抜群だった。この演出は、私がこのオペラをこれから見るときのスタンダードになってしまうかもしれない。


休みが終わってこれから仕事が始まると忙しくなるかもしれないが、チェコが生んだスメタナのオペラをプラハの国民劇場で見ることができたのは、きっと大事な思い出となるだろう。


■国立オペラ劇場(国立劇場


チェコの作品を中心に上演する国民劇場に対して、昔はドイツ人のためにドイツ語作品を上演するドイツ劇場と呼ばれていたらしい。今でも、国民劇場がチェコの作品を主要なレパートリーとしているのに対し、イタリアやドイツの名作が上演されている。プログラムはプッチーニの『マノン・レスコー』だった。


 

プラハ国立オペラ劇場
プッチーニマノン・レスコー


≪キャスト≫

マノン・レスコー: Simona Procházková  レスコー(マノンの兄): Jiří Hájek
デ・グリュー: Igor Jan  ジェロンテ・デ・ラヴォワール: Oleg Korotkov
エドモント: Martin Šrejma


指揮: Jiří Štrunc  舞台監督: J.Bednárik
舞台デザイン: V.Čáp  衣装: J.Jelínek
演出: J.Moravčík  合唱指揮: T.Karlovič


オーケストラが良かった。とても引き締まっていて、整然とした演奏だった。あとは、舞台演出がたいへん洗練されていた。舞台に大小さまざまな絵が並ぶ様子はまるで「画廊画」のようで優雅だった。さらに、吊られた大きな絵が上下に分かれたらスクリーンが現われて、マノンとデ・グリューが馬車で逃走する様子が映し出されるなど、斬新な演出が素晴らしかった。

マノン役のSimona Procházkováは妖艶で美しいというよりはかわいらしい感じだった。デ・グリュー役のIgor Janも珠玉のアリアを聴かせてくれた。

劇中にかなり本格的なバレエもあって、一瞬も飽きなかった。


ドヴォルザークホール(ルドルフィヌム内)


プラハ滞在の最終日はチェコ・フィルのコンサートだった。指揮は日本でもなじみのあるオンドレイ・レナルト氏だった。チェコ・フィルの予定には、私が日本に帰った後に大野和士さんが振るプログラムもあったが、こちらは既に完売となっていた。


 

チェコ・フィルハーモニー管弦楽団演奏会


指揮:Ondrej Lenárd


プログラム:
▽E. SUCHOŇ: Sinfonietta rustica
▽P. VAN ONNA: Imbroglio – premiere
▽P. I. TCHAIKOVSKY: Symphony No. 6 in B minor op. 74 “Pathétique”

スホニュ。スロヴァキアの作曲家。初めて聴いた曲。3楽章構成。曲はそれほど難解でなく楽しめた。


P.VAN ONNAの楽曲は本日初演で、作曲家本人も来ていた。スホニュと同様に3楽章構成で、こちらも難解ではなった。作曲家本人も大変満足していたようだ。


そしてチャイコフスキーの「悲愴」。チェコ・フィルの音は重厚で、CDでよく聴いた昔のドイツのオーケストラの音のようだった。チェロは滑らか。コントラバスがズンズン重々しい。ヴィオラはそれをサポート。ヴァイオリンはよく鳴っていた。低弦をベースに音を作る感じだった。このホールは音響がとてもよいが、昔のホールだけあって、現代のホールの音響とは特徴が違うようだった。残響が長めな分、音の分離はそれほどでもない。機械的ではなく古き良き時代の響きという印象だった。チェコ・フィルの音は、ホールのこんな特徴にフィットしているように思った。ホールがオーケストラを育てるというか、結局、オーケストラの音とは、ベースとなるホールを抜きに語れないなと思った。


なかなかの熱演だったが、惜しいことに時差ボケの影響が出て、とても眠かった。もったいない。


 

 


上の写真はコンサート前に撮った写真。ライトアップされたカレル橋や、夜空に浮かび上がるプラハ城が幻想的だった。


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