ポリーニの円熟のバラード
夜、電気を消して布団に包まってポータブルオーディオで音楽を聴くのが昔から好きだった。
好きな曲をカセットテープに入れて、ウォークマンで聴きながら、布団に入ったものだった。翌日が日曜日で早起きする必要がないときなんか最高で、温かい布団のなかで好きな音楽を聴きながら幸せなひと時を過ごした。
子供の時の習慣はなかなか変わらないもので、いまでも、iPodで音楽を聴きながら、いい気持でそのまま寝てしまうことが大いにある。
ショパンのピアノ曲はそんな時にぴったりだと思う。特にぴったりなのはノクターンだが、全集となるとCD二枚組ともなって長いので、最近はバラードを聴いている。
ショパンの4曲のバラードの中では、私は最初、1番を最も気に入って、次いで、3番、2番、4番という順番で好きだった。
情熱的であったり、寂しげであったり、そわそわしていたり、耽美的であったり、ピアノという楽器の表現力をこれでもかと駆使して書かれた珠玉の4曲で、私はこの4曲をピアノ曲の四天王と勝手に命名している。
ショパンのバラードは数えきれないくらい何度も聴いたが、いまでは、断然、4番が好きで、あとの3曲はそれほど大差がない。どれも好きだが、4番には及ばないと思っている。
- アーティスト: ポリーニ(マウリチオ),ショパン
- 出版社/メーカー: ポリドール
- 発売日: 1999/10/14
- メディア: CD
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このアルバムは、ポリーニが1990年代の終わりに録音した、ショパンのバラード集で、このピアニストの円熟の境地が味わえる一枚となっている。
どれもすごい完成度なのだが、4番が抜群に優れている。最初の音が響いた瞬間から異常な吸引力で引き込まれ、最後まで聴きとおさずにいられない。テクニックが完璧なのは言うまでもなく、それ以上に「怨念」のようなものさえ感じる。「精神性」という言葉でまとめたくはないが、CDの情報量を超えた「何か」が籠る、稀有の名演奏だと思う。演奏のフィナーレ付近には唸り声とも叫び声ともとれる音が入っていて、きっと本人にとっても渾身の演奏だったはずだ。
ポリーニは、ショパンコンクールに優勝した後も、ショパンだけを集中的に録音するということはせずに、研鑽を重ね、レパートリーを広げていった。ショパン作品は、1970年代のポロネーズ集、練習曲集と前奏曲集、1980年代のピアノソナタ、1990年代のスケルツォ集というふうに、この作品はこの年代というふうに集中して録音している。
そしてバラードが1990年代の終わりの録音。ポリーニの全盛期となると1970年代になるので全盛期の録音で聴きたかった気もするが、こういう凄みのある演奏を聴くと、この時期に録音して良かったのだと思う。