ファビオ・ルイージ×シュターツカペレ・ドレスデン
シュターツカペレ・ドレスデンの演奏会に行ってきた。
客席は7割くらいしか埋まっていない状況。3階席やステージ正面の2階席後方、ステージ奥のW〜Z席など、安価な席は埋まっているものの、1階席の左右壁際や2階正面席の中間部、S席など、席によってかなり空席が目立った。値段の割にステージから遠い席や、高価な席が売れ残っていると見た。
100年に一度といわれる日本経済の不況が影を落とし、強気な価格設定が災いしたのか、せっかくの名門オケなのにもったいない。この状態だと今度の来日はいつになることか。ただでさえ来日オケが大阪を飛ばして京都や西宮で公演をするケースが増えているというのに。次はあるのか。ますます大阪公演が遠のく。
ドレスデン国立歌劇場管弦楽団(シュターツカペレ・ドレスデン)
大阪公演《オール・R.シュトラウス・プログラム》
2009年4月26日(日)15:00 ザ・シンフォニーホール
指揮:ファビオ・ルイージ
管弦楽:ドレスデン国立歌劇場管弦楽団(シュターツカペレ・ドレスデン)
プログラム:
▽R.シュトラウス:交響詩「ドン・ファン」
▽R.シュトラウス:交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」
〜休憩〜
▽R.シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」
≪アンコール≫
▽ウェーバー:歌劇「オべロン」序曲
尤も、客入りと関係なく、演奏のクオリティは素晴らしいもので、豊穣なドレスデン・サウンドを思いきり堪能できた。
このオーケストラと指揮者にとって、オーケストラに高い演奏技術を要求するリヒャルト・シュトラウスのプログラムは、もっともふさわしいプログラムだったと思う。
「ドン・ファン」は煌びやか+華やかで、流れるような勢いがあったし、「ティル」では凝った構成が寸分たがわぬ精度で再現されていく。ゾクゾクした。エスプリに富んだ名演。「英雄の生涯」はもう完璧で、個々の奏者は非常に巧いし、巧いだけでなくきちんと魅力的に聴かせるし、全体でも抜群にまとまっていて、このレベルの実演に巡り合えることはめったにないと思った。アンコールの「オベロン」序曲でのリズム感はご当地のオケでないと得られないリズム感で、またメインプログラムとは違って多少ルーズになった?弦の音色も味があって最高だった。
ファビオ・ルイージの音楽作りは、スマート&エレガントで、一言で言うと洗練された大人の音楽作りだった。壮年でも若者でもない大人の演奏だった。
シュターツカペレ・ドレスデンは世界で相当に古いオーケストラのひとつなので、私は朴訥で骨董品のような音色を期待していったのだが、そういうのとは違った響きだった。同じドレスデンのオーケストラとしては、去年来日した、ラファエル・フリューベック・デ・ブルゴスが振ったドレスデン・フィルの方がいぶし銀に例えられるような、「渋い」サウンドだったように思う。
シュターツカペレ・ドレスデンの響きは、時に丸く柔らかく、時に刺すように鋭く、都会的でスタイリッシュなのにどこかノスタルジックな匂いを感じるような、不思議な響きだった。こういうのを歴史とか伝統、あるいはブランドというのだろうか。品位を落とすような崩れもなく、大げさな部分もなく、野暮ったさもなく、とにかく上質な音だった。
家に帰ってきて終演後からだいぶ時間がたったが、あの音の余韻がまだ残っている。ファビオ・ルイージ&シュターツカペレ・ドレスデンの、あの豊かなサウンドは、クラシック音楽の理想的な姿のうちのひとつだと思った。