『世界の10大オーケストラ』 (作者: 中川右介・幻冬舎新書)
きっとたくさんのCDが紹介されているんだろうなと軽い気持ちで手に取ったが、予想は見事に裏切られた。
- 作者: 中川右介
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2009/07/01
- メディア: 新書
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これは「音楽」の本でなく「歴史」の本だった。読んだ後の感想は、「いや〜勉強になりました」だった。ずっしりと読みごたえがあった。一言で言うと、「クラシック音楽とオーケストラ(あるいはその中心人物であったカラヤン)を通して振り返る歴史」!
紹介されているのは、ベルリン・フィル、シュターツカペレ・ベルリン、ウィーン・フィル、ロイヤル・コンセルトヘボウ管、フィルハーモニア、国立パリ管、ニューヨーク・フィルハーモニック、レニングラード・フィル(現サンクト・ペテルブルク・フィル)、チェコ・フィル、イスラエル・フィル。全部で10オーケストラ。「どのオーケストラの演奏が優れているか」などという演奏の優劣とは関係なく選ばれた、カラヤンと関係の深かったオーケストラだ。
オーケストラの音色や録音(あるいは名盤)にはあえて触れず、オーケストラがどのような固有の歴史を持ち、どのような人物が関わり、どのように変貌していったのかが丁寧に語られている。
著者が言うように、古いオーケストラのひとつであるウィーン・フィルでさえ、ベートーヴェンが生きていたころにはまだ存在しなかった。音楽を演奏する環境も、音楽家をめぐる環境も、聴く環境も、今とはまったく違っていた。あらためて、オーケストラというものが近代的な組織であることがわかった。近代史のなかで生まれたオーケストラが、戦争、革命、東西冷戦などその時々の政治に翻弄されながら、激動の情勢の中で活動してきた様子が緻密に描かれていて興味深かった。