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ヴァイオリン協奏曲(ヒラリー・ハーン)&ヒグドン


私にとって新譜の発売が最も楽しみなクラシック音楽演奏家の一人、ヒラリー・ハーンの協奏曲のCDが発売された。Amazonで予約していたら、発売日に届いた。Amazonは予約者への発送が後回しにされるなんていう黒い噂があるので心配していたが、しっかり届いた。


チャイコフスキー&ヒグドン:ヴァイオリン協奏曲

チャイコフスキー&ヒグドン:ヴァイオリン協奏曲


今回はチャイコフスキーとヒグドン。これまで、ベートーヴェンブラームスメンデルスゾーン、バッハ、パガニーニシベリウスと、古典からロマン派にかけて、ヴァイオリン協奏曲の名曲を録音してきたハーンにとって、チャイコフスキーの録音は、ファンもずっと待ち望んでいた。いよいよ。満を持しての録音という印象がある。


◇  ◇  ◇


グドンは世界初録音で、これはちょっと一言では言えない。現代音楽だけあって、メロディーは分かりづらく、和音は複雑で、ヴァイオリンのソロも高難度。しかし興味深い。「現代音楽にしては」、複雑すぎないし、聴きやすいメロディーも存在するし、激しい部分もあって、聴きごたえのある演奏となっている。最終楽章などは大変スリリングだ。ライナーノーツを読むと、ヒグドンはハーンのカーティス音楽院時代の先生だったらしい。そんなこともあって、この曲はハーンに捧げられた曲で、思い入れのある作品らしく、集中力のある演奏を聴かせてくれる。ハーンはこれまでの録音で、現代曲に関してはどれも高い水準の演奏を残している。今回の録音でも、現代曲に強いことを証明した。


チャイコフスキーは少しもゴージャスでない、シンプルな演奏。「あれ?これチャイコフスキーだよな」まず、違和感を感じる。こんなに平和でなめらかで良いのだろうか。省略の多いアウアー版でなく、チャイコフスキーによるオリジナル版を使用したとある。それで聴いた印象が違うのか。慣れ親しんだものと比べるとずいぶん素朴だ。サンクトペテルブルクの煌びやかな宮殿よりは、シベリアの土のような音楽だ(どちらも実際に見たことはない)。オーケストラも力みがなく青筋が入っていないし、平和で牧歌的である。


ハーンのヴァイオリンはいつも以上に冴えていて、快速のテンポにも破たんせず、技術的にも圧倒的だ。これだけ難しいことを、こんなに簡単に、涼しい顔をしてできるヴァイオリニストは他にはいないだろう。ただ、これまでの演奏とは多少雰囲気が異なる部分もある。以前には見られなかった落ち着きが随分と加わった印象を受けた。もっと詳しく言うと、目の前の音楽だけにストイックに向かっていたのが、だんだん演奏家としての幅が出てきて、曲との間に距離が生まれてきたから、落ち着きが出てきたのではないかと思った。そう感じるのは私だけだろうか。私の気のせいか、年齢によるものなのか、成熟を示すものなのか、演奏家として次のステージに進む過渡期を暗示するものなのかわからないが、今回、過去の演奏と比べて演奏の質が変わったような気がしてならない。


グドンの演奏は良かったと思うが、世界初録音だけあって比べる対象がない。チャイコフスキーは個性的でこれまでの演奏とは趣が違う。良い演奏であることは確かなのでお薦めしたい一枚ではあるが、過渡的な演奏である気もする。評価に迷う一枚でもある。


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