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序曲「1812年」(作品49)の名盤


チャイコフスキーの序曲「1812年」のモチーフは、ナポレオン軍によるロシア侵攻で、1812年のモスクワでの抵抗とロシア軍の勝利を描いたものと言われている。


ロシア民謡やらロシア正教の聖歌やら、ロシア国歌、さらにはフランス国歌までもが登場しては消え、ぶつかりあう。金管が派手に咆哮し、弦もしつこいくらいに歌う。信じられないくらい激しい音も出るし、最後には大砲も登場するなど、要するに大騒ぎで、エンターテイメント性の高い曲となっている。


戦闘の様子は音楽によって時系列を追って表現されていく。最初はロシア民謡調の平和なメロディーで幕を開けるが、続いてフランス国歌「ラ・マルセイエーズ」が派手に鳴り響く。ナポレオン軍の強さを象徴するように、この主題が次々に変奏され、リズムも激しさを増していく。しかしそれも次第に弱まっていく。代わりに出てくるのがロシア風のメロディーで、これがロシア軍による抵抗を象徴している。両者の激しいぶつかり合いが演じられた後、ロシア調の主題が勝利し、最後にはロシア軍の勝利の確信を念押しするかのようにロシア国歌が鳴り響く。フィナーレはお祭りのような騒ぎで幕を閉じる。


ちなみにこの曲は、独裁国家に対する一人の反逆者の抵抗を描いたエンターテイメント映画『Vフォー・ヴェンデッタ』でも使用された。爆破シーンでこの曲が流れた時、まるでこの映画のこのシーンのために書かれた曲のように「当たり」だと思った。


外面的で、深みが乏しい作品かもしれないが、私は好んでよく聴いている。スカッとする曲で、ジメジメした梅雨から蒸し暑い初夏にかけてぴったりの曲のようにも思う。


テミルカーノフ×サンクトペテルブルク・フィル

チャイコフスキー : 交響曲第5番&「1812年」序曲

チャイコフスキー : 交響曲第5番&「1812年」序曲

チャイコフスキー生誕150年記念コンサートでのライヴ録音という記念碑的な録音。ロシアの偉大な作曲家の作品を、ロシアの偉大な指揮者(ムラヴィンスキー)が鍛えたロシアの偉大なオーケストラが、巨匠への道を歩み始めた指揮者による指揮で演奏する。名演にならない方がおかしい。聴衆の期待も後押しし、とんでもない熱演となっている。テンポは一定を保てず、アンサンブルも激しく乱れるなど、細部にこだわると穴が多い演奏なのかもしれないが、そんなことは気にならない。感動に目頭が熱くなる。


バレンボイム×シカゴ響

シカゴ響というだけで聴く前から予想がついたことだが、演奏レベルが著しく高い。実際、それを裏切らない。精度は恐ろしく高いし、盛り上がりも相当なものだ。オーケストラとはこんな精度でドライブできるものなのかと感嘆する。ただ驚くばかりで、バレンボイム&シカゴ響によるすべての演奏の中でもっとも調子が良い日だったんじゃないかと思う。


カラヤン×ベルリン・フィル

スマートな演奏に慣れた現在の耳で聴いてみると、カラヤンは単に万人受けの良い、スタイリッシュな音楽づくりをしていたわけではないんだなあと思う。音楽の流れが悪くなるくらいに随分とゴツゴツとしていて、グロテスクで、かなり威圧的な演奏となっている。もっともこの演奏は60年代のものなので、カラヤンが最も尖っていたころの録音だったということもあるかもしれない。合唱付き。


バーンスタイン×イスラエル・フィル

チャイコフスキー:1812年

チャイコフスキー:1812年

聴く前からわかっていたことだが、やはりバーンスタインらしいしつこさのみなぎる演奏。しかしこれがクセになる。単にしつこいのではなくて、センスを感じる巧い部分もあって、こうした紙一重な部分がバーンスタインの天才を証明しているように思う。躍動的でスタイリッシュで、さらにしつこい点が本盤の魅力。


小澤征爾×ベルリン・フィル

チャイコフスキー:交響曲第5番

チャイコフスキー:交響曲第5番

小澤征爾の繊細さと熱っぽさがよく出た快演。現在ほどメジャーでなかった東洋人指揮者が、百戦錬磨のベルリン・フィルを相手に堂々と渡り合っている。鮮度の良い魚のようなイキのよい演奏は十分に個性的だ。頑張りに勇気づけられる。


ストコフスキー×ロイヤル・フィル、グレナディア・ガーズ軍楽隊、ウェールズ・ナショナルオペラ合唱団

チャイコフスキー:1812年

チャイコフスキー:1812年

一言で言うと、作曲チャイコフスキー、編曲ストコフスキー。楽譜は大幅に修正され、さらには録音にも手が入れられている。その分、細部の掘りはいっそう深く、これに慣れたら他の演奏すべてが生ぬるく感じられるだろう。まるで映画音楽のようで、そこが好みの人もあれば、嫌悪する人もいるかもしれない。


アバド×ベルリン・フィル

チャイコフスキー:管弦楽曲集

チャイコフスキー:管弦楽曲集

同じベルリン・フィルでも、カラヤン時代の威圧的な演奏とは打って変わって、繊細かつ丁寧でスムーズな演奏となっている。全体的には、スポーツ飲料のように爽やかな演奏だ。しかし燃えていないかといわれるとそうでもなく、十分に感情のこもった部分もある。書生のように謙虚でありながら、自分の色をしっかり出しているところがアバドらしい。


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