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村上春樹作『1Q84』BOOK3


昨日、村上春樹作『1Q84』のBOOK3を読み終えた。随分前に刊行されたのに読み終えたのがここまで遅くなったのは、BOOK1とBOOK2をもう一度読みかえしていたためだ。


1Q84 BOOK 1 1Q84 BOOK 2 1Q84 BOOK 3


まるでドラクエの新作を楽しみにしている小学生のように待ち遠しく、急がずに大事に読んだ小説だった。次の長編はいつになるかわからないので、早く読みたい気持ちを抑え、まずBOOK1から読み返してみた。じっくりと時間をかけて読んだ。


(以下は、昨日、読み終えた興奮のままにAmazonに投稿したレビューに少し手を加えたものです。)


◇  ◇  ◇


「爆発的に売れている小説ですが、内容はそれほどエンターテイメント性の溢れるものでもポピュラーなものでもなく、どちらかといえば、重く、暗く陰鬱で、地味な作品です。


意図的に流れを悪くしているかのように、試行錯誤の描写が多く、進行も重層的で、また、いろいろな出来事がそれぞれ象徴的で、これまでの作品以上に油断のならない作品となっています。さらに、いままでの作品と大きく違うのは、暗く、不吉で、暴力的なムードがずっと背景にあることです。この暗さは、『海辺のカフカ』でも見られましたが、いっそう深まっています。


暗さということについていえば、登場人物たちはさまざまな闇を抱えています。宗教団体「さきがけ」は人を消すことくらい簡単にしそうな徹底的な不透明さがあり、某カルト集団を容易に連想させるものです。登場時はどこにでもいそうなキャラクターだと思っていた安達クミも実は「一度死んで」いて、麻薬をやったりしています。油断していました。また、もうひとりの主人公・青豆やその周辺、つまり主人公の側の人物を見ても、例えばセーフハウスの女主人などもそうです。人を違う世界に送り込む=消滅させるという行為は、原動力は純粋で意図も崇高なものだとしても、やり方には相当問題があります。しかし、そうせざるを得ない心の闇が想像されます。そんな闇が集団的に描かれていますが、それが具体的に何なのか、言葉では明らかにはされません。この作品では、善悪の基準もあいまいで、きわめて不安定でグロテスクな世界と、そこに生きる人々が描かれています。


時折見せる特徴的な言い回しや、ふかえり、タマル、牛河、NHKの集金人のような個性的な登場人物の描き方は、村上ワールドそのものですが、全体的には、ファンにとっても解釈の難しい作品です。平易な文章で書かれていますが、いろいろ考えさせられます。


ラストは随分と肯定的なものですが、同時に、責任を持たないといけないという、厳しいものでもあります。こういう責任について作者が描いたのはたぶん初めてのことだと思います。賛否両論のある作品ですが、作品ごとに新しい領域をひらいてきた村上ワールドの現在の最高到達点。読んで損はありません。」


◇  ◇  ◇


村上作品を読んでいつも思うのは、物語の力の大きさだ。読者は作者によって周到に準備された箱庭で、それぞれが違う部分を探り当て、それぞれの面白さを見つける。「タイガーをあなたの車に」って何なんだ?解釈できるかできないかのギリギリの象徴的な出来事や、曖昧なまま残される謎が気持ちよい。結局、今作でも読者は置いてけぼりを食らうのだが、そんな感覚を楽しめるのはこの人の作品だけだろう。

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