USHINABE SQUARE

クラシック名盤・名曲と消費 生活 趣味

信楽焼の里を訪ねる


昨日から遅めの夏休みを取っている。休みになったら行きたいところがいくつかあって、信楽もそのうちのひとつだった。


このブログで書いたことは一度もなかったかもしれないが、私はやきものがけっこう好きで、この興味は比較的新しく、4年前くらいに仕事で岡山県備前市に行ったついでに、博物館を見て、窯をいくつか廻って見て、備前焼の焼酎カップを買って帰ってきたのが、きっかけだった。備前焼というのは全体的には素朴で、土と火だけの作用による偶然の産物というのが奥深くて、面白かった。そして所有して、使ってみて、今でもぜんぜん飽きない。しかも価格についても、安いとは言えはないが、法外に高価であるということはなくて(人間国宝の作品などは別で、それらは別格に高い)、実用品の範囲に収まっている点も好きな点だ。


今回、私は買いたいものがあった。私の家には豆皿というものがない。皿はたくさんあるのだが、魚の造りや寿司のための醤油を入れるのにちょうどよい皿がない。仕方がなく平たい小皿で食べているのだが、常々不便に感じていたので、機会があれば買いたかった。いままで存在しなかったものを新たに買うので、無理にデパートなどで探すのではなく、焼き物の名所で、できれば誰が作ったかわかるようなものを買いたい。それが今回、信楽を訪れた理由だ。


■大津サービスエリア〜信楽インター


信楽は遠くて不便なところだと思っていたが、第二名神が開通したので、大阪からもアクセスが簡単になった。草津ジャンクションから15分で信楽インターに着く。いままでだったら大津や草津から地道を1時間近く走らないとたどり着かないというイメージだったので、近くなったと実感する。「大津サービスエリアから琵琶湖を眺めていた30分後には信楽に着いていた」なんて感じで、以前とは比較にならないくらい時間的にも感覚的に近くなった。



信楽インターを降りて、市の中心部に向かって10分くらい車を走らせると、販売店が目立つ。入口ではたぬきが出迎える。数百匹のたぬきが迎えてくれる。でも、たぬきの焼き物の歴史は比較的浅くて、昭和の時代に作り始めたらしい。たぬきに囲まれながら、豆皿を物色するが、どれも決め手に欠ける。玉石混淆というか、綺麗なものもあれば、そこらへんの不要品のバザーで売っていそうなものもある。いまひとつピンとこない。続いて2〜3店見て回るが印象は変わらず。



滋賀県立陶芸の森〜傑作を鑑賞し、信楽焼の知識を仕入れる


せっかく信楽まで来たが私は信楽焼について全然知識がない。どういうものが良いものなのかもわからない。よいものをたくさん見る必要があると思った。近くに県営の『滋賀県立陶芸の森』というのがある。まずはここから始めてみよう。


滋賀県立陶芸の森』は、田園の中の高台に位置し、ここからの眺めがたいへん良かった。販売所があって、ここで展示・販売されている品々は、先ほどまでとは違って洗練されているように思った。


 
 


敷地内には、信楽焼の傑作を展示する陶芸館がある。こちらでは『しがらきやき−直方の茶陶 春斎の壺−』という特別展が開催されていたので立ち寄った。



少し長くなるが、パンフレットの解説から引用したい。

『五代上田直方(1928− )と高橋春斎(1927− )は、焼締陶、穴窯焼成による信楽焼の伝統技法を守りながらも、独自の感性を盛り込んだ作品を制作する現代信楽焼の二大巨匠です。
 直方系譜は、幕末・明治期に活躍した谷井直方に始まり、その号を継承した二代上田直方より代々茶陶の制作を中心に行ってきました。五代目となる直方は、若い頃より茶道の修業を重ね、茶人としての顔も持ちます。豊かな感性から生み出された茶陶は、趣とあたたかみを兼ね備え、現代の信楽茶陶を代表するものです。
 また春斎は幕末に活躍した高橋藤左衛門を初代とする楽斎系譜の窯屋に生まれ、父である三代高橋楽斎のもとで陶技を習得しました。独特の信楽大壺をはじめ、食の器など様々な器を制作してきました。試行錯誤のもとに生み出された「火色」「窯変」は、最大の魅力といえるでしょう。
 直方は平成3(1991)年に、春斎は平成7(1995)年に、それぞれ滋賀県指定無形文化財保持者に指定され、多くの後進作家たちにも影響を与えています。』


フムフム。信楽焼の系譜は大きく分けて2つあるのか。そんな基本情報をもとに展示を見ていく。良い品の実物は知識のない私が見ても、形と言い色と言い、ものすごい迫力だった。信楽焼がどんな雰囲気のものかなんとなく感じられた。他に信楽焼の知識としては、その歴史は、紫香楽宮の造営のための瓦を焼いたのがはじまりだったと言われるほど古い。中世の日本の六古窯のひとつに数えられる。たぬきは比較的新しい。あとは…。腹が減ってきた。


■ひとまず休憩、昼食〜近江牛のレストラン『牛石』



せっかく滋賀に来たので近江牛のおいしい店で食べたいので、昼食に、まっぷるのガイドブックに出ていた『牛石』という店を選んだ。ステーキ定食2,150円。ちかごろ「自分にご褒美しすぎ」で、散財しがちである。肉は「噛まなくても溶ける」と言うほどでもないが、十分に柔らかい。焼き加減はミディアム。外はしっかりと火が通っていて、中は赤い。血が滴るほどではない。個人的には一番好きな焼き加減だ。味付けはシンプルに塩とコショウだけ。あとは好みでマスタードをつけてもよい。「良い肉をこんな調理法で食べてみたい」お手本のような調理法で、昼にしては豪勢な価格だが満足した。飲食店が多いとは言えない信楽で、このクオリティをこの値段で出すのは良心的だと思った。


■そして信楽焼の豆皿をみつける


空腹が満たされて意欲がよみがえる。店巡りを続ける。いろいろ訪問した結果、信楽焼の店は大体、(1)歴史が古く窯を持っていて陶芸体験もできる店、(2)ギャラリー兼販売所、(3)作家が自らやっている店、(4)たぬきメインの観光客向け販売店、の4つに分類されることがわかってきた。午前中に私が見て回ったのは(4)ばかりだったので、ニーズに合わなかったのだ。(1)の店も見たが、好みの品には出会えなかった。独断で推測するに、(1)は遠足の児童が多い。たぶん私が欲しいような品を置いているのは、(2)か(3)だと思う。


結局、何店か訪問し、店の人にいろいろ説明してもらって、気に行った豆皿がかなりリーズナブルな値段で売られていたので、買ってきた。(2)の店だった。2つで2,300円。かなり著名な作家によるものなので、この価格は嬉しかった。



赤褐色の胴体に無造作にポツポツと白い点が出ている。これは土に含まれる金属が焼いた時の高温による変化を受けて表面に出たもので、受ける印象はとても豪快。皿が立派ならまずい料理もおいしくなりそうな錯覚がある。仮にスーパーで魚の造りの盛り合わせを買ってきて、この豆皿に醤油を入れて食べると、銀座の寿司屋で刺身を食べている錯覚に陥るかもしれない。


人気ブログランキングへ
ブログランキング・にほんブログ村へにほんブログ村 クラシックブログへにほんブログ村 クラシックブログ クラシック音楽鑑賞へにほんブログ村 クラシックブログ クラシックCD鑑賞へ