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プレートルの第九


クリスマスも終わり、今年もあと2日となったのに、まだ年賀状にとりかかっていない。クリスマスプレゼントはイブの間際に買ったし、年賀状も先週金曜日にようやく買ったし、いろいろ乗り遅れ気味だ。


日本だけの風物詩とはいえ、私も年末になるとベートーヴェン交響曲第9番『合唱』(以下、第九)を聴きたくなる。というか、一年の分をこの時期にまとめて聴いているような気がする。ここ2年くらいは演奏会からは足が遠ざかっているが、つい数年前まで12月は本当に第九ばかりいくつもの演奏会をはしごして聴いていた。しかし、いろいろ乗り遅れ気味の今年は第九にも乗り遅れ、最近ようやく「今年の年末分として集中的に」聴いている。


出来のよい新しい録音が毎年毎年発売されるわけではないので、過去のものを聴くことになるわけだが、今年はプレートルがウィーン交響楽団を振った2006年録音のCDを頻繁に聴いている。


ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱」 ジョルジュ・プレートル指揮ウィーン交響楽団、ウィーン楽友協会合唱団+ソリスト

ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱」 ジョルジュ・プレートル指揮ウィーン交響楽団、ウィーン楽友協会合唱団+ソリスト


ジョルジュ・プレートルは、もともとフランスものを得意とする実力派の指揮者だったが、本当の意味でメジャーになったのは最近のことだ。2008年のウィーン・フィルのニュー・イヤー・コンサートに当時史上最高齢の84歳で登場して、年齢を感じさせない(というか若い人でもできないような)熱のこもった快演を聴かせてくれて、絶賛を浴びた。そしてその日から突然、ヨーロッパを代表する巨匠ということになった。2010年には自身の持つ最高齢記録を更新して86歳で同コンサートに再登板する。驚くべき大器晩成型の指揮者である。


若い時には尖っていた音楽家が年齢を重ねて熟成され、しみじみとした音楽をやるようになった、というのはよく聞く話だが、プレートルは逆で、年齢に関係なくどんどん激しく、熱くなっていく。ここ数年のプレートルは狂い咲き?最後の花火かと心配に思うくらいだが、実際は安心するくらい元気だ。


ウィーン・フィルと並ぶ、この街のもう一つのオーケストラ、ウィーン交響楽団を振ったライブ録音のこの第九でも魂のこもった、壮大で骨太な音楽を聴かせてくれる。ゴツゴツしているばかりでなく、プレートルの真骨頂は、裏側に潜む陶酔的な世界も描き出している点だ。この辺りは、録音で聴く全盛期のカルロス・クライバーのようでもある。


第1楽章は宇宙の誕生のようだ。第九は、宇宙の誕生のような無の世界からドラマが始まるのだが、その後の展開は戦いに終始する。緊張感のある、ギラギラとした表現だ。第2楽章などはかなり速いスピードで、張り詰めた空気が伝わってくる。恐ろしいほどだ。デモーニッシュという表現がもっともよく似合う。第九という音楽の異常性が際立っている。第3楽章は耽美的。この落差がすごい。第4楽章は「熱狂の日」という感じで、派手にやらかしているといった風情。テンポはフルトヴェングラーの有名な「バイロイトの第九」の録音のように大胆に変動し、ティンパニはドカンドカン鳴らしまくり、各楽器のバランスを著しく欠いた局面にも遭遇するが、ギリギリのところで破たんさせずに力技でドライブする。とても孫がいる年齢の音楽家のやる音楽には聴こえてこない。しかしこれだけ大胆にやった演奏でも、表現されているのは、真摯に人類愛を歌った第九の精神に他ならないので、とても心を打たれる演奏になっている。


ただ、このCDにも残念な点があって、新しい録音の割に録音品質があまり良くない。10段階評価の6点くらいの音質で、悪くはないが良くもないクオリティにとどまっている。昔のステレオ録音みたいに響きが平板で立体感も薄ければ、マイクの位置が悪いのか高音の鋭さも低音の深みも薄い。もっと良い録音で聴きたかった。このレベルの録音でこれだけ感動するとなると、実演はどんなにすごかったかと恐ろしくなる。


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