ピアノ・ソナタ第18番ト長調「幻想」(D894)
シューベルトのピアノ・ソナタ第18番ト長調「幻想」を聴いている。
- アーティスト: 内田光子,シューベルト
- 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック クラシック
- 発売日: 2009/08/05
- メディア: CD
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シューベルトのピアノ・ソナタは、全部で21曲あって、この作曲家特有の歌心が発揮されている曲もたくさんあるのだが、後期作品になると、暗く渋く、時に冗長で、救いようがなく不吉だったり、華やかな演奏効果もないままモソモソと続く曲が多くなってくる。それが逆に魅力に感じられたりすると、それこそシューベルトの魔力に魅入られた状態で、もっと進行すると自分のために書かれた作品のようにさえ感じられるのかもしれない。シューベルトのピアノ・ソナタは、ディープなファンの多いジャンルである。私はまだそこまではいっていないが、いつかはそうなるような気がしている。
ピアノ・ソナタ第18番ト長調「幻想」はまず、安らぎと慈愛に満ちている。
第1楽章。思索しながら森を散策するイメージ。素晴らしく甘美なメロディーや印象的なフレーズがあるわけではないのだが、ただただ美しい。そして心地よい。
第2楽章は、前楽章のイメージを引きずる。部屋に帰ってきた主人公はまだ考え事をしているようだ。しかし思索は続けられない。劇的な、鋭いフレーズによってかき消される。
第3楽章はマイナー調。彫りの深い陰影が、見かけ以上の不幸を物語るようだ。
第4楽章は冒頭は舞曲のようなロンド楽章。だが背景には木枯らしが吹いている。後半はまるでベートーヴェンの後期のピアノ・ソナタのような厳しさを見せる。だがベートーヴェンのように「正攻法」かつ「論理的」ではなく、もっと感覚的でミステリアスなのがシューベルトだ。あやういバランスが魅力だ。
私はとくに第1楽章が好きだ。どうしてこんなに惹きつけられるのかと不思議に感じながら、つい繰り返して聴いてしまう。