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ピアノ協奏曲/巨匠リヒテルと詩人ルプー


私が大好きな曲、シューマンのピアノ協奏曲には対照的な名盤が2点存在する。


ひとつは、伝説的なピアニスト、リヒテルによるもの。


グリーグ&シューマン:ピアノ協奏曲

グリーグ&シューマン:ピアノ協奏曲


リヒテルソ連出身のピアニストだったため、全盛期はちょうど東西冷戦の最中であり、西側諸国に出ることがなかなかできなかった。したがって、評判だけが独り歩きし、「謎のピアニスト」、「伝説のピアニスト」として畏敬の念を抱かれていた。ようやくソ連当局の許可が下りて、ようやく出て来られるようになると、評判通りの実力に西側諸国のクラシック音楽ファンはたちまち虜になった。


彼の特質をひとことでいうと「大柄な巨匠スタイル」。剛腕でありながら、繊細に歌うこともできて、「巨匠」という呼び名に相応しい、傑出したピアニストだった。シューマンのピアノ協奏曲でもその資質が存分に発揮される。豪放磊落なピアノで、繊細で女性的なこの曲に、大河の流れのようなスケール感をもたらす。オーケストラを振るのはマタチッチで、細部にまで神経の行き届いた丁寧で美しい伴奏をおこなっている。


もうひとつはラドゥ・ルプーによるもの。


グリーグ&シューマン:ピアノ協奏曲

グリーグ&シューマン:ピアノ協奏曲


ルプーの特徴は、タッチの美しさだ。抒情的で、やさしく、整っている。リヒテルが「巨匠」なら、ルプーは「詩人」である。ルプーの音色は言葉以上に雄弁で、自然体の美しさを備えている。ルプーは、もっとも詩に近い音を持ったピアニストだと思う。


シューマンのピアノ協奏曲では、彼のそんな資質が如何なく発揮されている。シューマンの音楽はたいへん感傷的であり感情的でもあり、構成や理論よりは、情緒がずいぶん勝る部分が強く、そこがファンにはとても魅力的なのだが、ルプーの優しい語り口はそんな音楽にぴったりはまる。自然に湧き出る詩人の言葉に、荒れた心が洗われるようだ。オーケストラはアンドレ・プレヴィンが振るロンドン交響楽団で、これがまた実に丁寧な、慈しみを持った演奏を聴かせる。


2人のピアニストが同じ曲を違った風に弾く。リヒテルは巨匠のように。ルプーは詩人のように。


この2枚は共に、1970年代に録音されたものだが、いまだに輝きを放っている。これだけ性質の違う演奏が、ほぼ同時期に録音され、共に名盤であることが驚きである。


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