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『洋食いくた』の「コロッケ」


老舗洋食店には、「値段ばかり高級」で、「内装は古めかしく」、「味はごく普通」といった店が少なくない。


有名な老舗洋食店ビーフシチューを頼んだりすると、飲み会に行ったくらいの料金がかかってしまうが、それに我慢したとしても肝心の味が「ん?はて?これを旨いというのか?」というような味だったら、「最近の自分の人生が間違っていたような」後悔に陥る。


こういうことになってしまう原因は、ある店が有名になって、テレビで紹介されるようになると、忙しくなるので、手間とコストをおしむようになるためだ。それでも勝手に客が入ってくれるので、手抜き料理の再現ばかりとなる。値段を上げても客が入る。そうなるとこの負のサイクルは止まらない。地元の人は来なくなり、一見の観光客だけが喜んで来る店になってしまう。そしていずれは観光客さえも行かない店になる。


不幸な運命をたどる前に、そんな店の人は、一度、神戸の元町にある『洋食いくた』に行ったらいいと思う。大げさに言えば、料理人になった時の最初の気持ちを思い出すはずだ。


『洋食いくた』は、神戸の元町にある老舗洋食店だ。神戸では震災があったため店舗は創業当時のものではないが、老舗の有名店であり、味は本格的でありながら価格は安く、内装は地味ではあるが味があるし、雰囲気も悪くない。私は以前に兵庫県に住んでいたことがあったので、昔よく行った。先日、久しぶりに行ってみたが、本質的な部分では何も変わっていなかったので、もとの位置に無事着地できたような気分だった。



私が注文したコロッケが定食で740円。私は感動した。仮にも神戸を代表する洋食店がこの価格でいいんですか?やっていけるんですか?という気持ちだ。ハンバーグセットが770円。ステーキセットでも1,000円を切る。


メニューは豊富だが、まずは、このコロッケが名物だ。『洋食いくた』のコロッケはかなり特徴がある。まず、コロッケというと、ホクホクのじゃがいもを想像するが、こちらはじゃがいもではない。牛ミンチと玉ねぎのコロッケである。だから、切ってみると、じゃがいもの湯気が上がってくるようなイメージのコロッケではなくて、中身がドロッと出てくる。


例えるのが難しいのだが、これはオランダで食べたコロッケみたい。日本のコロッケと見かけは同じだが、中身は全然違う。あれもドロッとした玉ねぎにコンビーフみたいな肉の繊維が混じっていた。それにかなり近い。(なんて言っても私の個人的な経験、誰にも理解していただけないかもしれません。でもそうとしか例えようのないコロッケなんです)。一般的なコロッケとは違うが、これはこれで唯一のもので、おいしく食べられる。


ソースはほのかに苦味も感じる複雑なおいしさ。だから、これでこの値段はあり得ない。この値段でスープとライス付きである。


付け合せのポテトサラダも上品かつ丁寧に作られている。またキャベツもいっさいの苦味がない。よくトンカツ屋でキャベツが苦かったりすると、かなり幻滅するものだが、こちらはそんなことがなくて、つまり抜かりがない。


さらに、オープンキッチンの店でもある。これでは料理人は手を抜けない。実態は、料理人と客との真剣勝負である。アットホームな感じの店なのだが本格的だ。


人間、人気が出れば楽をするし、商売人であれば儲かるならばもっと儲けようと思うものだが、本当に大事なことはそんなことではない。歳月にも、誘惑にも、人気店の宿命にも打ち勝った、こういう店は尊敬に値する。

【洋食いくた】


住所:神戸市中央区北長狭通2-1-1 パープル山勝ビル1F
営業時間:11:00〜15:15/17:00〜20:45
定休日:(水)(祝日の場合翌日)


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