『オン・ザ・ロード森山大道写真展』
大阪の国立国際美術館で開催されている『森山大道写真展』に行ってきた。現代の日本を代表する写真家の、関西では初めてとなる大規模な展覧会であり、しかも盆休み直前の土曜日だったので、相当な混雑を覚悟したが、「ものすごく」空いていて、意外だった。きっとみんな集団で帰省してしまって大阪にいなかったんだと思う。フロアにはたぶん20人くらいしかいなかった。採算が取れるのか心配になるほどだった。
「森山大道(1938年、大阪生まれ)は、商業デザインの仕事に携わったのちの1960年、22歳の時に大阪在住の写真家・岩宮武二に弟子入りします。細江英公のアシスタントを経て、1964年に独立、カメラ毎日、アサヒカメラなどに発表の場を得ました。現在までの約半世紀ものあいだ、東京を拠点に撮影と発表を行っています。
森山の写真の被写体は、ほぼ一貫して、路上に見いだせる日常の断片でありながら、その写真は、見る者を激しく揺さぶりながら、写真というものの概念の拡張に貢献してきました。写真とは何かを、改めて問わせる力を兼ね備えています。今日では国際的な高い評価と、幅広い層からの人気を獲得し、現代日本を代表する写真家の一人となっています。
本展では、1965年のカメラ雑誌デビュー当時から現在まで、写真家・森山大道の軌跡を、主な写真集10数冊の流れに即して顧みます。そこから森山の個性なるものと、写真観の変貌の両方が読み取れることを願っています。総出品点数は400点以上、東京をテーマにした森山にしては珍しいカラー写真も紹介する予定です。」(『国立国際美術館』のサイトより引用)
- 作者: 森山大道
- 出版社/メーカー: 月曜社
- 発売日: 2011/07/01
- メディア: 大型本
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感想は…
難しい。この感想を言葉にするのは難しい。刊行された写真集のまとまりで展示されていた作品群は、ひとつひとつのまとまり、一枚一枚の写真がすべて、見ごたえがあって、ドラマがあった。しかし全体像を言葉にしようとすると、とても困難だ。
まず、写真家自身が何も考えていないように見える。まるでカメラの化身のように、人格が消されている。ただ路上に出て、目の前で起こっていることを、先入観も準備も思想もなしに、何かに取りつかれたような、しかし説明のつかないメンタリティーで、精力的に記録している。
写っている光景は、無防備であり、生々しくゴツゴツとしたものだ。不完全で禍々しいものが感じられる。どれひとつして真っ当な写真はない。独特な感性。というのが唯一、言葉にできた感想だった。こんな写真を撮る人はきっと普通ではない。
最後に写真家自身の言葉を著書から引用したい。
「ほとんどの人は、日常しか撮っていないでしょう。つまり、基本的に異界に入り込んでいない。でも、街はいたるところが異界だからさ。街をスナップするってことは、その異界を撮るってことなんだよ」*1
「もっとも大切なのは欲望だね。撮る本人が、そのとき抱えてる欲望。それを持っていないと、見ることすら出来ないから。そこで見つけたものを、スナップするんだから。とある物体を撮りたくなる一瞬の欲望。女性をふと撮りたくなる欲望…欲望っていうのは本当に数限りなくあるはずなんだ。だから、自分自身が欲望に忠実な、欲望体となってスナップしないと面白くもないし、そもそも、意味がないんだよ」*2
「異界」を映す写真。「異界」がキーワードだった。
- 作者: 森山大道,仲本剛
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2010/08/17
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