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アリス=紗良・オットのチャイコフスキー/リスト


アリス=紗良・オットのコンチェルト・アルバムを聴いている。収録されているのは、チャイコフスキーとリストのピアノ協奏曲.。両曲とも第1番。


アリス=紗良・オットは日系ドイツ人の女性ピアニストで、2004年に日本でデビューするとたちまち、若手トップとも言えるほどの人気者になった。テレビ番組『情熱大陸』への出演もあり、アイドル的な売られ方をしてしまったために、実力を疑う人がいるかもしれないが、本格的な才能を持ったピアニストである。


まず、テクニックのレベルが相当高く、音楽の解釈も成熟しており、演奏も男性ピアニスト顔負けの力強さがある。表現力は20代のピアニストよりはずっと大人びており、演奏を聴いてみて、一言で言うと、「スケールの大きなピアニスト」だという認識を持った。


■国内盤

チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番

チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番


■輸入盤

Tchaikovsky/Liszt: First Piano Concertos

Tchaikovsky/Liszt: First Piano Concertos


このジャケットの違いは日欧の文化の違いを物語るようで興味深い。アイドルじゃないんだから、こういう売り方はどうかならないものかと思う。輸入盤の方がスマートだし、センスもいいし、ずっと良いと思う。私は輸入盤を買った。


まず、チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番。名曲中の名曲。私はこの曲を初めて聴いたとき、なんと雄大で美しい曲だろう、クラシック音楽にはこんなにも素晴らしく甘美な曲があるのかと心震えたものだが、演奏を聴いてみて、その最初の感動がよみがえってきた。


彼女は、まるでロシア人のようにチャイコフスキーをものにしている。曲の肝をわしづかみにして、はじけるような若い感性と成熟した表現力で屈託なく演奏したという感じである。聴きなれたフレーズなのに新鮮で、ダイナミックな生命力に溢れている。この曲を観葉植物に聴かせたらよく育ちそうだし、横に焼酎の瓶を置いといたら味がまろやかになりそうだ。そして、オーケストラもモチベーションが高く、ポジティブである。トーマス・ヘンゲルブロックの指揮するミュンヘン・フィルの音色は、柔らかく、若い。ピアノとオーケストラの総合力で言っても高いレベルにある。


この曲の録音で、最近5年くらいの新しいものでは、私は、上原彩子がデ・ブルゴスとのコンビで録音した演奏が一番の演奏だと思っているが、こちらはそれに並ぶ名演で、すっかり気に入っている。


チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番&ムソルグスキー:展覧会の絵

チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番&ムソルグスキー:展覧会の絵


リストのピアノ協奏曲は、アリス=紗良・オットお家芸ともいえる超絶技巧が栄える。癖のある名曲を正攻法で落とす。圧倒的なテクニックによって再現される音の密度がすごい。若いのにテクニックのあるピアニストというのは、あざとさが目立ってしまうが、それを感じさせない自然さがあって、これだけバランスのとれた演奏というのはなかなかない。ちょっと不健全なところのあるリストの曲だが、彼女の手にかかると洗濯したて白いシャツのように、清潔感すら感じさせる曲に仕立て上げられている。オーケストラもチャイコフスキーの時と同様、活力がある。


2曲聴いてみて、やっぱりスケールの大きなピアニストだと思った。


アイドル的な売られ方ではもったいない。長い目で成長を見続けていくべき音楽家だ。現在、さらなる成熟が楽しみな演奏家の筆頭である。


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