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京都市美術館の2大展覧会その2『フェルメールからのラブレター展』


昨日のブログにも書いた通り、京都市美術館では大物の2つの展覧会が開催されている。そのうちのひとつ、『ワシントン・ナショナル・ギャラリー展』(以下、『ナショナル・ギャラリー展』)を見終えたその足で、右ウイングで開催されている『フェルメールからのラブレター展』(以下、『フェルメール展』)へ足を運んだ。これらの2つの展覧会は、チケットブースも別々に設けられている。(【⇒『ナショナル・ギャラリー展』のブログはこちら】



フェルメール展』は、開催したばかりの『ナショナル・ギャラリー展』よりもさらに混雑していた。平日、しかも週の真ん中の日の午前中なのに、私が行った時間で「10分待ち」。入場制限がかかっていた。これでは、土日はもちろん、連休中などは大変なことになるはずだ。京都は大変日差しも強く、また蒸し暑いので、入場待ちをする人は熱中症対策が必要だ。しかし観光客の人出が落ち着く午後の遅い時間、例えば閉館前の時間などは穴場の時間で、案外、混雑もマシなのではないだろうか。


混雑は中に入っても相当なもので、きちんと時間をかけて1枚1枚を鑑賞するには、かなりの忍耐を要するレベルの混雑ぶりだった。二重三重にも人の波が重なり、絵が遠い。祭りの会場のようである。そして、フェルメールの部屋へ入室する際にも部屋の前で入場制限がかかった。


それほどの混雑で、もう絵どころではなかったかというとそうではなくて、展覧会の印象は、これはもう、豪勢でありながら、意欲的な展覧会で、私は魅了された。今回公開されたフランダル絵画中心のコレクションの、これらの絵には、描かれているモチーフや小物に、対象そのものではなくて暗に示すもの、寓意とか、象徴とか、実に深い意味がちりばめられている。それをわかりやすく気付かせようとする主催者の企画と意図を強く感じた。だから鑑賞者の感性が問われるような、鋭意のある内容だった。そうした括りで、傑作ばかりではないが、すべての絵がきちんとした意図のもとに集められ、効果的に展示されていた。


もちろん、圧巻だったのが、フェルメールの部屋。世界に30数点しかないフェルメールの作品が3点も同時に集められている。その3点とは、『手紙を書く女』、『手紙を書く女と召使』、『青衣の女』の3つだ。これらがいま京都にある。逆に言うと、これらの絵を所蔵する「ワシントン・ナショナル・ギャラリー」、「ダブリン・ナショナル・ギャラリー」、「アムステルダム国立美術館」にわざわざ行っても、現在、これらの絵が観れないのである。


http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/4/43/Vermeer_A_Lady_Writing.jpg/537px-Vermeer_A_Lady_Writing.jpg*1


『手紙を書く女』は、黄色いガウンを着たモデルが笑顔を浮かべて手紙を書いている。この黄色のガウンは他の絵にもよく登場していて、フェルメール奥さんの持ち物だったと言われている。この絵は、恋の気持ちをストレートに示した絵と言われている。しかしそれ以上に、私が感じるのは「書かれていない人物の存在」である。フェルメールのこういった作品では、モデルはこちらを見ているようなものは決して多くないのだが、この絵のモデルはこちらを向いている。まるで画面の外、つまり私たちを見ているようだ。書かれていない人物がもう一人いるような印象を受ける。母親だろうか。それとも。画面外にもう一人いるとすると謎めいてきて、さらに味わい深い絵になるような気がする。さらに、机に置かれた宝石や、小箱の描写の精密さは大きな見どころだ。質感が滲み出ている。


http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/2/2b/DublinVermeer.jpg*2


『手紙を書く女と召使』は極力、モチーフや小物を省略してきたフェルメールにしては、珍しく、要素が満載で、物語を感じさせるものだ。足元に落ちている手紙。慈愛を示す背景の絵。複雑な召使の表情。


http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/d/db/Vermeer%2C_Johannes_-_Woman_reading_a_letter_-_ca._1662-1663.jpg/497px-Vermeer%2C_Johannes_-_Woman_reading_a_letter_-_ca._1662-1663.jpg*3


『青衣の女』は、修復を経ての世界発公開という価値ある展示。私は昔、「アムステルダム国立美術館」に行ったときに、(多くのヨーロッパの美術館では写真を撮っても良いので)写真も撮ってきたが、そのときは、もっと曇った色だった。この画像は曇った色の頃のものだが、現在は、鮮やかな水色で、修復技術の素晴らしさを尊敬する。それでは、絵の世界に入ってみよう。


*4
ちなみにこの写真は2004年にオランダで撮ったもの。今見ると懐かしい。奥に、座られていない一脚の椅子がある。これは大事な人の不在を示す。後ろの壁に貼られた地図は世界地図だ。これは相手が遠方にいることを示す。モデルの女性は俯いているが、手紙は力強く握られている。画面左、向かう方向から光がさすことは、明るい未来を示す。良い知らせのはずである。当時はこういう服装が普通だったのかもしれないが、お腹が大きいようにも見える。妊娠している子がいるからこそ、いっそう嬉しい。そんな仮説を勝手に立ててみた。




解釈は自由である。楽しい展覧会だった。この記事ではフェルメールだけに絞って書いたが、そのほかの絵画も同様に様々な解釈が可能である。そんな要素が満載のコレクションだった。


たとえば『フェルメールとフランドル絵画の傑作展』という展覧会でもできたところを、わざわざ、「手紙(コミュニケーション)」と「寓意」をテーマとした展覧会にしたところに企画の勝利がある。表現意欲に感心するとともに、知的好奇心を刺激されて私は家に帰ってきた。


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*1:画像はすべてWikipediaより

*2:同上

*3:同上

*4:2004年・オランダ