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アルゲリッチとポリーニ


ある好きな曲を複数の演奏で聴くのは、クラシック音楽ファンにとって大きな楽しみの一つだ。「聴き比べ」の楽しさへの目覚めは、クラシック音楽ファンがマニア度「初級」から「中級」にレベルアップした頃にやってくる。そんなわけで、家にCDが溢れることとなる。


今夜紹介する2枚はどちらも素晴らしい演奏でありながら、全く異なるタイプの演奏である。2枚とも、ショパンのピアノ・ソナタ第2番と第3番がカップリングされていて、演奏するのは傑出した才能を持つ2人の現役ピアニスト、マルタ・アルゲリッチマウリツィオ・ポリーニ


まずはアルゲリッチ


ショパン:ピアノソナタ第2番&第3番

ショパン:ピアノソナタ第2番&第3番


一言で言うと「鮮烈」。「強烈」でもある。タッチは瑞々しく、時にデモーニッシュであり、それを支える解釈は自信に満ちている。若くて才能のある画家が、インスピレーションのままにキャンバスに描いたような絵のような演奏。情熱的であり耽美的であり即興的である。第2番の第3楽章などは悲劇に沈む。生前葬のような理不尽な不気味さをたたえながら、繊細で脆く儚い、壊れそうな幽玄の美が描かれる。第3番も優れているが、より自由な内容を持つ2番の方でアルゲリッチの魅力が開花しているように感じる。


アルゲリッチは何を弾いても、一聴しただけでアルゲリッチとわかる、独特のリズム感を持っている。実演ではキャンセルが多いが、調子が良いときは、たった一人で空気を一変させる強烈な魅力を持っている。ショパンピアノソナタでもそれは健在だ。「まるでアルゲリッチのような」と例えられた女性ピアニストは幾人も現れたが、アルゲリッチにとって替わる新しい女性ピアニストはまだ現れてない。このCDは、不世出の天才女性ピアニストによるピアノソナタの録音だ。


そしてポリーニ


ショパン:ピアノ・ソナタ 第2番&第3番、舟歌

ショパン:ピアノ・ソナタ 第2番&第3番、舟歌


こちらはインスピレーションではなく、名工が歳月をかけて完成させたモニュメントのような、強靭で揺るぎのない演奏である。このときポリーニは42歳。技術的にはポリーニの全盛期は20代だったなんて言う意見もあるくらい、若いときから完成されたピアニストだったが、いよいよ円熟を迎えた頃の録音である。確かに「凄味」は消えている。しかし「充実」している。ポリーニは、一切の感傷はなく、冷徹な解釈で、ショパンが描いたすべての音符を再現する。ピアノを弾く人ではなくて、ポリーニがピアノという楽器の一部であるかのように、まるでピアノの化身となって、ショパンの描いた設計図を完璧に音にする。


そして出てきた音楽は、情報量と密度がすごい。印象を一言で言うと「ただ事ではない」という感じだ。私はピアノを弾けないので専門的なことはわからないが、メカニカルな側面から言えば、ポリーニは史上最高のピアニストだと思っている。圧巻の演奏で突っ込みどころ皆無。気が付いたら口を開けたまま聴き浸った、なんてことになる。


対照的な二枚だか、どちらもレベルが非常に高く、この曲のナンバーワンを争うほどだと思う。新しい録音ではないが、いまなお、孤高の存在として君臨する2枚のCDである。私の家の、溢れかえるCDの中でも、埋没しない輝きを持つ2枚である。


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