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アラン・ギルバートのハイドンと『未完成』


アラン・ギルバートは、若干40代にして、伝統あるニューヨーク・フィルハーモニック音楽監督を務める、若手注目指揮者のうちの一人だ。


日本人を母に持つ日系人であり、両親ともにニューヨーク・フィルの弦楽器奏者を務める音楽界のサラブレットであり、おまけにニューヨーカーでもある。日本のオーケストラとのかかわりで言うと、過去に、N響都響に客演している。


最近、この指揮者の録音をよく聴いている。


そういえば先日、ニューヨークでの演奏会の最中に観客のiPhoneが派手に鳴って、指揮者の判断で演奏を一時中断したというニュースがテレビでも放映された。その時の演奏会の指揮者がアラン・ギルバートだった。

NYフィルの公演中に携帯の着信音、指揮者が演奏中断


ニューヨーク(CNN) 米名門オーケストラ、ニューヨーク・フィルハーモニー管弦楽団のコンサートの最中に観客の携帯電話が鳴り響き、指揮者が演奏をストップするハプニングがあった。

観客席で携帯電話が鳴ったのは、10日夜に同オーケストラがマンハッタンで行った公演でマーラー交響曲第9番を演奏している最中だった。会場にいた観客がツイッターやブログで伝えた話を総合すると、交響曲は最後のクライマックスを過ぎて「音楽と静寂が入り混じる」極めて繊細な場面。タイミングは最悪だったという。

鳴っていたのはステージ左型の最前列に座っていた高齢の男性の携帯電話だったが、この男性は身じろぎもせず、マリンバの音の着信音は3〜4分あまりも鳴り続けたという。

音に気付いた指揮者のアラン・ギルバート氏は手を止めて演奏を中断。会場には着信音だけが響き渡った。ギルバート氏は持ち主に向かって「終わりましたか?」と尋ねたが、返事がなかったため「結構です、待ちましょう」と言い、指揮棒を譜面台の上に置いた。着信音はさらに何度か続いた後、ようやく鳴りやんだという。(省略)

ギルバート氏は「通常であれば、このような妨害があっても止めない方がいいのですが、今回はひどすぎました」と断った後に、オーケストラの方を向き、「118番」と指示して演奏を再開。観客からは拍手が上がった。

同氏はニューヨーク・タイムズ紙に「非常にショッキングな出来事だった。あの作品の中でも崇高な感情が高ぶる部分で、乱暴にたたき起こされたようなものだ。壇上の全員ががく然とした」とコメントしている(2012.01.13 Fri posted at: 10:45/『CNN.co.jp』より引用)。


この客は年配の男性客であり、iPhoneを買ったばかりであり、最初は自分のiPhoneだとは思わなかったらしい。そして着信音ではなく、アラームだったそうだ。アラームが鳴ってもそれを止める操作方法がわからなかったため、止めることができずに鳴り続け、被害が大きくなった。


アラン・ギルバートは、音楽を中断し、辛抱強く待ち、最終的には男性に「もう終わりましたか」などとも聞き、処理が終わった後、中断した音楽をハイライトの前まで巻き戻して再開したということだ。

この「大惨事」の(曲はマーラーの第九のもっとも神聖な終楽章だ。「大惨事」と言ってよい)スマートな処理の仕方、柔軟性、的確な判断は、音楽作りにもそのまま表れている。スマートで繊細、柔軟な音楽作りをする指揮者なのだ。


見かけは体格に恵まれ恰幅がよく(というか「巨漢」と言ってよい)、雰囲気は日本人指揮者の佐渡裕さんみたいだが、「ひたすら熱い」佐渡さんと違って、音楽作りは色彩豊かで、かつ繊細。女性的な美しさを持った音が出てくる。オーケストラのコントロールが素晴らしく、知性を感じさせる。たいへんスマートな音楽作りだ。また、自身がヴァイオリニスト出身だけあって、弦セクションの扱いが卓越している。よく歌い、よく泣き、また官能的だ。


CDはそれほど発売されていないが、ニューヨーク・フィルハーモニック定期演奏会のプログラムを有料配信しているので、私はそれをダウンロードして聴いている。iTunesiPhoneからもダウンロードできるのが便利だ。


レパートリーを見ると、現代もの、ハイドンモーツァルトベートーヴェン、フランス音楽、マーラー、ロシアものなど、バラエティに富んでいる。死角はないように見える。ニューヨークフィルを復活させた立役者であり、現在でも相当活躍しているが、今後、インターナショナルな飛躍が期待される指揮者のうちの一人だ。


ニューヨーク・フィルにとっては何と言ってもマーラーが至高のプログラムだが、いきなりマーラーは少々ディープなので、シューベルトハイドンあたりから始めるのが、この指揮者、このオケを知る近道になるかもしれない。


ハイドン交響曲第49番ヘ短調が収録されている。『受難』という副題で知られている。チェンバロ入りの古風な編成を取りながらも、オリジナル楽器の演奏とは一線を画す、モダンオーケストラによる華やかな演奏。小編成オケによる室内楽的なすっきりとした構造の中で、弦楽セクションの艶っぽさが際立っている。ハイドンの『受難』はものすごく有名というわけではないが隠れた名曲であり、演奏も文句なしに素晴らしい。


シューベルトの『未完成』は、過度に深刻にならない、クリアーでシャープな音楽作りが特徴だ。指揮者の支配力がすみずみにまで行き渡っており、主旋律の背後で効果的に、その分身のように動く低音が効果的に描き出される。すべてのパートが全部聴き取れるような、見通しのよい音楽作りだ。曲の構造、構成、美しい部分がよくわかる説得力のある演奏だ。


上記2曲の古典派およびロマン派音楽に加え、ベルクの20世紀音楽、ジョン・アダムズの現代音楽の楽曲が収録されている。


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