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シャイー&ライプツィヒ・ゲヴァントハウスの交響曲全集


ベートーヴェン交響曲全集を買うのもこれでいくつ目になるのだろうか。そんな疑問にため息。広くない部屋の限られたスペースを圧迫するCD。しかも全集は、豪華な箱に入っている。場所を取る。同じ作曲家の同じ曲。クラシック音楽ファン以外には理解できない行動だろう。いくつ目だろうか。答え。たくさん。根本的な問題は、新しい、素晴らしい演奏というものが必ず出てくることだ。


ベートーヴェン:交響曲全集

ベートーヴェン:交響曲全集


最近、シャイーが手兵のオーケストラであるライプツィヒ・ゲヴァントハウス管(以下、ゲヴァントハウス)とともに録音したベートーヴェン交響曲全集に、私は夢中になっている。この全集は2011年11月の発売で、ほぼ同時期に発売されたクリスティアンティーレマン指揮ウィーン・フィル演奏の全集とともに、クラシック音楽ファンの間で広く聴かれている。

ベートーヴェン交響曲全集』
演奏:ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
指揮:リッカルド・シャイー


CD1
1. 交響曲 第1番 ハ長調 作品21
2. 序曲《プロメテウスの創造物》作品43
3. 交響曲 第2番 ニ長調 作品36
4. 《レオノーレ》序曲 第3番 作品72a
CD2
1. 交響曲 第3番 変ホ長調 作品55《英雄》
2. 歌劇《フィデリオ》序曲 作品72
3. 交響曲 第4番 変ロ長調 作品60
CD3
1. 《コリオラン》序曲 作品62
2. 交響曲 第5番 ハ短調 作品67《運命》
3. 交響曲 第6番 ヘ長調 作品68《田園》
CD4
1. 《エグモント》序曲 作品84
2. 交響曲 第7番 イ長調 作品92
3. 交響曲 第8番 ヘ長調 作品93
CD5
1. 《命名祝日》序曲 作品115
2. 劇付随音楽《シュテファン王》序曲 作品117
3. 交響曲 第9番 二短調 作品125《合唱》


新しいベートーヴェン交響曲全集というのは、だいたいが「楽譜に忠実」を訴え、校訂版や新版が発表されるとそれ一色となる傾向がある。しかし、シャイーはそうした方法を取らない。曲によって、フレーズによって、自らの行う音楽にとって最適な楽譜、最適な版を採用する。この点では、原理主義ではなく、折衷主義だ。そしてテンポは、ピリオド奏法のオーケストラによって市民権を得た、かなり早めのテンポで行っている。この姿勢、草食系ではなく、ガツガツしている。


ゲヴァントハウスのサウンドは、世界で最も古い自主運営によるオーケストラということもあって、絹のような滑らかで品のある響きを期待するが、ずっとモダンで、鮮やかで、印象としては、「世界最古のオーケストラ」ではなく、「イタリアの歌劇場のオーケストラ」のようである。シャイーが世界最古のオーケストラにもたらしたものは、明るめの音色を作り出す抜群の色彩感覚と、都会的で洗練されたスマートな音楽づくりだ。


カペルマイスター(楽長…このオーケストラのトップ)に就任したばかりの頃には、両者の音楽性が噛み合わないというか、ややぎくしゃくした部分も感じられたのだが、この全集を聴いてみて、今や完全に掌握したと感じた。このコンビは、世界でもっとも成功しているコンビのひとつとなっている。ドイツのオーケストラだ、しかもベートーヴェンだということで、意気込みは相当なものがあったことだろう。満を持しての録音は大成功に終わる。


全体的には、どれもたいへん素晴らしい。全集として、歴史に残る名盤だと思う。まるでそのシーズンのプロ野球ベストナインのように、あるいはバレンタインデーのチョコレートの箱に並べられた9つのチョコレートのように、どれもが傑出している。全部が良い。あきらかに「これは普通」と言えるような平凡な演奏がない。


◇  ◇  ◇


それでは順番に見ていこうか。


1番。鮮烈。反撃を合図するのろしのように攻撃的なメッセージである。ありきたりな食材に魔法を施す一流の料理人のようである。この全集で「普通にはやらない」という内容が伝わってくる。


2番。おもしろい。「塩梅(あんばい)」という日本語があるが、シャイーの音楽づくりは自由自在でセンス抜群。これほど完璧にオーケストラの底力を引き出してくれる指揮者のもので行う音楽生活は、たとえ辛いことがあったとしても、発見の毎日となるだろう。


3番。ちっとも偉そうでないところが逆に立派。若々しい英雄は疾走する。英雄の終楽章は、今まで聴いたどんなピリオド楽器のスピードより早い。それをモダン楽器のオーケストラがやることに衝撃があるが、別にこれは驚かそうと思ってやっているわけではない。確信をもって、しっかり地に足がついている。


4番。これは史上最高の4番ではないか。そんな思いが消えない。思い入れを抜きにフラットな気持ちで聴くと、過去に名盤と扱われていた名演奏を越えて、史上最高の演奏と呼べるかもしれない。


5番。地デジ時代の鮮明な演奏。5番はすこしも深刻ぶらない音楽づくり。スピード感たっぷりに駆け抜ける。


6番。この指揮者、このオーケストラにとって最適なプログラムかもしれない。スマートで色彩豊かな音楽づくりと、早めのテンポ設定が合っている。しかも嵐の表現は相当なものでまるで映画音楽のような迫真の演奏である。


7番。予想通りの快速。でも雑にならないのがすごいところだ。舞踏の要素のある第1、3、4楽章も素晴らしいが、陰鬱とした第二楽章も見事である。


8番。4番が素晴らしいのなら、同じようにハイドン的な交響曲としての完成形を目指した8番も素晴らしいのではないか?聴く前は、そんな予想をしていた。当たり。これまたすごい演奏だ。


9番。第九。だいたい新しい演奏では「第九がちょっと」というケースが多いものである。スマートにやれば「軽い」と言われ、重々しくやれば「時代錯誤」と言われる。第九は難しい。だからコケる。しかしこの全集にかぎってはない。史上最高の第九ではないが、第九らしく相応にドラマチックであり、シリアスである。しかも少年合唱団入りという珍しさもあって、新鮮な演奏である。


◇  ◇  ◇


一つずつ、振り返っては見たが、「全部が良い」という一言で終わらせていおいた方がよかったかもしれない。その表現が一番、この全集にはぴったりだ。粒ぞろいの名演である。ちなみに輸入盤だとかなり安価なので、私はそちらを購入した。CDの箱が占有するスペースは同じだが。


Symphonies

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