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浜省を大人買い(1)


浜田省吾(以下、浜省)の音楽に高校のときに夢中になり、大学のときには付かず離れず、社会人になってからほぼ聴かなくなり、いま再び、聴き始めている。聴きたいと再び思ったことの理由は、ある日突然、浜省の『悲しみは雪のように』のフレーズが頭の中を駆け巡り、また聴きたいという衝動を抑えられなくなったためだ。


結婚で引っ越したときに、どこかにCDを失ってしまっていたので、また買うことになった。一度、レンタルで借りてiTunesに落としたのだが、音飛びがひどく、交換に行くには日数が過ぎていたし、また借りにいくのも面倒なので、Amazonで注文した。聴かなかった時期があるとはいえ、大げさに言えば「一度は人生をともにした」音楽なので、揃えておいても悪くないと思った。大人なので、高校のときみたいに「月に一度、小遣いをもらった日に一枚」なんてささやかな買い方ではなく、「大人買い」。


そして最初に注文したCDが届いた。高校のときに夢中になったが、再び聴いた今。夢中になっているし、痺れている。


■The History of Shogo Hamada—Since 1975

The History of Shogo Hamada―Since 1975

The History of Shogo Hamada―Since 1975

2000年発売。デビュー25周年リリースのベスト盤。「ベストの選曲ではなく、歴史をたどるうえでのポイントとなる選曲」という基準でチョイスされた名曲集。浜省を除いて、1970年代の邦楽ヒットチャートの常連だったアーティストは今はほぼ聴かれていないだろう。古くさくて、きっと聴けないはずだ。またかつて大物と言われたアーティストの中で、年をとり、見ちゃいられないことをやってみたり、おかしくなっていく人もいる中で、浜省は全くぶれない。その姿はとても格好良い。未だに音楽シーンの第一線を走っているのがすごい。こうやって昔の曲から順番に聴いていくと、もともとデビュー時はフォークをやっていたのが、歌謡曲路線に振れてみたり、ニューミュージック(死語)調だったり、アメリカンロックにアイデンティティーを発見したりと、時代の変化に合わせてモデルチェンジを繰り返していることがはっきりとわかる。好きなことをやっているように見えて、時代を読んでいることが成功の秘訣だろうか。このアルバムは、シングル曲集ではないとは言っても、名曲『悲しみは雪のように』が収録されている。というか、テレビドラマの主題歌にも使われた音源で収録されているのは、このアルバムだけ。名曲なのに不遇の扱いだった。その曲がよみがえる。他にも、『丘の上の愛』、『ラストショー』、『陽のあたる場所』、『J.BOY』、『もうひとつの土曜日』など、切ない名曲揃いで、涙腺が緩む。


■青空の扉

青空の扉

青空の扉

1996年発売。当時から一番好きなアルバムだったので購入。バラード曲が中心で、ファンの間では、社会派ソングの多かったアノ浜省が「割と肩肘張らずに自由に恋愛を歌った」ラブソング集と捉えられている。確かにリラックスした雰囲気で、メロディはポップ。極上のボーカルは大人の男の声だ。充実とともに書き、楽しんで歌っているように感じる。冒頭から、『ビー・マイ・ベイビー』、『さよならゲーム』、『二人の絆』、『彼女はブルー』への4曲の流れは自然で、最後まで捨て曲は1曲もない。Amazonのユーザーレビューでは、「このアルバムで本当に捨て曲がなくなった」というレビューが載っていたが、本当にその通り。同様にジャパニーズ・ポップ(ロック)の巨人である桑田圭祐のアルバムには才能だけで書いたようないわば「捨て曲」があるが、浜省にはない。不器用だが妥協がない。私が好きなのは、『Because I Love You』という曲で、これなんか大人だけが共感できる傑作バラードだと思う。


■CLUB SURF & SNOWBOUND

CLUB SURF&SNOWBOUND

CLUB SURF&SNOWBOUND

1987年発売。夏にぴったりな曲。そして冬にもぴったりである。というのは、85年に発売されたクリスマスのコンセプトアルバムの『Club Snowbound』と、87年の夏のアルバム『Club Surfbound』を、一枚のCDとしてカップリングした作品だからだ。このアルバムの中に『プールサイド』という曲があるのだが、「プールサイドでトルストイなんて似合わないね、そのボストンメガネも(中略)そんな君、でも俺好きさ」という歌詞があって、私はこの世界観にやられてしまった。歌詞とメロディが一体となって、HD画質で映画を見るみたいに、鮮明なイメージが浮かぶ。ヘミングウェイだったらプールサイドに似合う。フィツジェラルドも似合うかもしれない。しかし歌にならない。これはトルストイだからこそ歌になる。


誰がために鐘は鳴る

誰がために鐘は鳴る

誰がために鐘は鳴る

1990年発売。社会派の浜省の集大成のような心志の高いアルバム。昔は好きだったが、いまは思いが入りすぎているような感じが多少する。ディープなテーマを持つ曲が多い。重いテーマを歌っても音楽として聴かせる巧さがあるのは立派だが、聴いていて疲れる時がある。『詩人の鐘』という曲のテーマは当時ホットだった南北問題だ。とはいえ、いまでも十分に本質をとらえている。このアルバムを締めくくる『夏の終わり』という曲があって、私はこの曲が浜省の全曲の中でもベスト5に入るほど、好きだ。「サンディエゴ・フリーウェイを南へ走ってる。国境線超えたら砂埃舞うメキシコ」というフレーズで曲は始まり、サビは「この車もギターも売り払い、海辺の街」という歌詞である。『イージーライダー』、『テルマ&ルイーズ』、『ストレイト・ストーリー』のようなロードムービーを想起させるようなテーマの曲で、私はこの曲に最初に夢中になったとき、いつか車でメキシコを目指したいとさえ思った。世間のしがらみやつまらない関係をいったん清算して、旅に出るというのは誰もが憧れることだろう。違う土地では違う自分を獲得できるはずだと。その後、何の小説だったか、たぶんヘミングウェイの小説だったと記憶しているが、印象的な台詞があった。その小説の登場人物はこんなことを言った。「旅に出ると新しい自分になれる?そんなことは幻想であって、ただ場所が変わるだけだ」。変わるのは、いる場所だけ。私がそれが実感できたもっと年を取ってから。でも『夏の終わり』を聴くと、旅に憧れた時間を思い出す。


そんなわけで、最近、浜省のマイブームが再燃している。並行してクラシック音楽も聴いているが、良い音楽というのはジャンルを問わないと実感している。


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