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アヴデーエワのショパンコンクールライブCD


先日、2010年のショパン国際ピアノコンクール(以下、ショパン・コンクール)の優勝者の演奏が収められている『月刊ショパン』の増刊付録CDのことを書いたが、今夜はそれと関連するCDを紹介したい。


このCDには、優勝者であるユリアンナ・アヴデーエワの第一次予選から第三次予選の演奏と、そして優勝決定後の記念コンサートの演奏から選りすぐった演奏が収められている。アヴデーエワは、ショパン・コンクール後にメジャーレーベルと契約しなかったので、いまのところこのCDがアヴデーエワというピアニストを知るうえで最も重要な録音となっている。


Piano Concerto E Minor/Sonat

Piano Concerto E Minor/Sonat

≪CD1≫
夜想曲第17番ロ長調Op.62-1
スケルツォ第4番ホ長調Op.54
・ワルツ第2番変イ長調Op.34-1『華麗なる円舞曲』
・幻想曲ヘ短調Op.49
・4つのマズルカOp.30
スケルツォ第3番嬰ハ短調Op.39
前奏曲第25番嬰ハ短調Op.45
・バラード第4番ヘ短調Op.52
夜想曲第7番嬰ハ短調Op.27-1
≪CD2≫
・ピアノ・ソナタ第2番変ロ短調Op.35『葬送』
幻想ポロネーズ変イ長調Op.61
・ピアノ協奏曲第1番ホ短調Op.11※

ユリアンナ・アヴデーエワ(ピアノ)/使用ピアノ:YAMAHA
ワルシャワフィルハーモニー管弦楽団/アントニ・ヴィト(指揮)
録音時期:2010年10月3日−23日
録音場所:ワルシャワフィルハーモニー・コンサート・ホール&ポーランド国立歌劇場大劇場*(ワルシャワ


一言でいうと、「貫禄の演奏」。まるで横綱相撲。アヴデーエワは20代半ばの、若すぎるわけではないがまだ中堅とは言えないキャリアのピアニストだったが、この時点で、すでに本物の風格を持つ音楽家だった。このCDで振り返ってみると、優勝して当然。ロシアの音楽教育の潜在能力の高さを見せつけられるかのような深みのあるテクニック。適正なテンポへの異様なほどの執着。充実したメンタリティー。ナショナルエディションをチョイスする骨太なポリシー。緻密な楽譜の読み。そしてショパンへの敬意。それらが一体となって、こういう横綱相撲が生まれたのか。


私はこのCDを聴いている時、コンクールの演奏というよりは、リサイタルを聴いているような気持だった。勝敗を決めるコンクールという場において、似つかわしくない落ち着き。感心させる音楽ではなく、感動させる音楽をしていたのが彼女だった。


そんな優れたピアニストだから、どの曲も素晴らしいのだが、このCDの中から、いくつか特に素晴らしかった曲を挙げてみよう。


私はワルツ第2番『華麗なる円舞曲』がかなり好きだが、アヴデーエワの演奏はワルツらしくないのだが、お腹一杯にさせる演奏となっている。これはワルツ特有のリズム感ではなく、アヴデーエワのリズム感。瑞々しい色彩感が見事。


幻想曲。私はこの曲が好きだ。情緒的で衝動的な名曲。序奏はたっぷりと時間をかけ、噛みしめるように始まるが、展開部になるとどんどんスピードを上げ、激しさを増していく。自在に操られるテンポによって、聴き手の時間が支配される。美しさと儚さに、泣けてくる。ますますこの曲が好きになってきた。


スケルツォの第3番は、テクニカルな難曲だが、全く乱れない。ピアノ・ソナタやバラードはアヴデーエワのスタイルにとくにフィットすると思っていたが、スケルツォも全然問題ない。素晴らしく統率された10本の指が、複雑な伽藍のような建造物を構築していく様は圧巻である。


バラード第4番もとても良い。控えめで抑制が効いている。ものすごい巧さを感じる。ショパンを駆り立てた複雑な感情が浮かび上がる。


ピアノ・ソナタ第2番は、ナショナルエディションに忠実な演奏で、綺麗事に終わらない、悩める音楽で、ゴツゴツとした音楽作りが見事。この演奏で最優秀ソナタ賞も獲った。


幻想ポロネーズは、これで優勝を決めたと確信するような圧倒的な演奏だ。中盤から怒涛のような集中力を見せ、密度の濃い大人の演奏を聴かせてくれる。


ピアノ協奏曲第1番の音源は、コンクール本線ではなく、優勝後の記念コンサートで弾いたものだ。そんなこともあってか、より自由なテンポ設定で、表現の幅もさらに広い。オーケストラはこの若いピアニストを信頼し、テンポもだいぶ任せている。自由に楽しんで演奏している姿が頭に浮かぶ。第二楽章なんて消え入りそうな弱音が見事だ。こんなに情感豊かなピアノは聴いたことがない。


そんな感じで、このCDを何度も繰り返し聴いているが、全然飽きない。


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