井上道義×サンクトペテルブルク響・大阪
井上道義・指揮、サンクトペテルブルク交響楽団のコンサートに行ってきた。
さて、このサンクトペテルブルク交響楽団(以下、サンクトペテルブルク響)は、同じサンクトペテルブルクを本拠地とするオーケストラのサンクトペテルブルク・フィルの知名度には及ばないが、今では息子の方が有名になってしまったヤンソンス(アルヴィト)、テミルカーノフらが過去に主席指揮者を務めた、ロシアの名門オーケストラの一つである。日本語では似たような名前となってしまうが、英語での表記をカタカナに直すと、「サンクトペテルブルク(セントピーターズバーグ)・アカデミック・シンフォニー・オーケストラ」となり、「アカデミック」が付く分、印象は異なる。
指揮者の井上道義さんとサンクトペテルブルク響というと、2007年に東京の日比谷公会堂における連続演奏会が記憶に新しい。サンクトペテルブルク響は、その記念碑的なチクルスを一緒に(主に)やったオーケストラという印象が残っている。関西在住の私はその場にいなかったが、別の日の別のプログラムでの演奏会終演後にマイクを握った指揮者は「(興奮ぎみに)あれは凄い演奏だった」とスピーチした。そんなコンビによるショスタコーヴィチ、しかも第五。期待が高まる。
◆井上道義指揮サンクトペテルブルク交響楽団・大阪公演
2013年4月20日(土) 15:00 ザ・シンフォニーホール
オーケストラ:サンクトペテルブルク交響楽団
指揮:井上道義
≪プログラム≫
▽チャイコフスキー:幻想序曲『ロメオとジュリエット』
▽ストラヴィンスキー:バレエ組曲『火の鳥』1919年版〜休憩〜
国内オーケストラの演奏会に比べてチケットが高価なこともあって、客性は満員とはいかなかった。半分以上は埋まっているように見えたが、1階席の左右端、二階席の最前列と後部以外、ステージ向かって右側のS席が空いていて、トータルで五分の三くらいの入りと見えた。
チャイコフスキーの『ロメオとジュリエット』はドラマチックだった。濃厚な響きで、このオケはこういう感じなんだというのがわかった。繊細な音色のオケではない。個々に達者な奏者はいるが、全体としてみるとこってりとした重厚な音だった。ベルリンフィルやコンセルトヘボウみたいに巧いオーケストラだとは思わなかったが、音の特徴は地響きみたいに迫力のある音で、印象深いサウンドだった。
ストラヴィンスキーの『火の鳥』はこのコンビのポテンシャルの高さを見せるのにふさわしい曲だった。結構、暴れていたが、崩れない。音が分厚い。土から生まれたようなオーケストラだ。また、こういった金管の強さは日本のオーケストラではまず味わえない。ホールが鳴る。体が違う。木管のソロもまた見事。こういう巧い人はどこのオーケストラにでもいるものだ。エネルギーを指揮者は自在にコントロールする。
そして肝心のショスタコーヴィチは凄まじかった。私の想定をはるかに超えるレベルの演奏だった。うねりがすごい。起伏が激しい。熱演。では足りない。燃えているなんてものではなくて、これは爆発だ。完璧な演奏ではなかったが、魂がこもっていて、本物の芸術だと確信させる演奏だった。圧倒された。ロシアのオケとはいえ、日本人指揮者が振っているのが信じられないような本場の強さを感じる演奏だった。強さと言えば、ティンパニが尋常でなかった。ロシアの大地を駆けるコサック騎兵のような迫力で、頭おかしいくらいにキレていた。キレ気味のこの爆演を支えていたのがティンパニだった。実際、終演後の拍手の中、最初に指揮者から称賛を浴びたのはティンパニ奏者だった。
ショスタコーヴィチは私がクラシック音楽を聴き始めたころに初めて好きになったのだが、シベリウスが好きになり、その後、ベートーヴェンやブルックナーが好きになり、フランスの作曲家も聴きたい、マイナーなピアノ協奏曲の傑作を探したい、等の遍歴があって、比較的疎遠な存在となってしまっていた。しかし今回、ショスタコーヴィチの凄い演奏に巡り合うことができた。またこれから聴いていきたいと思う。