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シフのバッハ・ゴルトベルク


ここ最近しばらく、シフが弾くバッハ『ゴルトベルク変奏曲』を聴いている。


もしバッハが存在しなかったら、クラシック音楽の歴史は様変わりしていただろうし、クラシック音楽ファンの音楽ライフも相当貧困なもののなっていたかもしれない。


私は、モーツァルトに癒され、ベートーヴェンの誇り高い音楽に叱咤激励され、ブルックナーの崇高な音楽に共感しつつ、最近はショスタコーヴィチに再入門もした一方で、バッハの音楽というと特別な存在である。バッハの音楽の素晴らしさを書こうとしても、言葉にできない。特別としか言いようがない。


私のような一愛好家だけでなく、音楽家にとってもバッハは特別で、例えばアメリカを代表するピアニストのうちの一人であるマレイ・ペライアも指の故障を克服する過程でバッハに接近し、後世に残る名演奏を残している。


バッハと言えば第一にマタイ受難曲が挙げられるが、より親身に聴くことができる曲というと ゴルトベルク変奏曲がある。


この曲は、不眠症の貴族のために書かれた曲で、退屈させないようにバッハが創意工夫を施して完成させた傑作で、宇宙の広がりを感じるような豊かな中身を持った曲である。私はクラシック音楽を聴き始めたころから今に至るまで、数えきれないくらい聴いたが、それでも飽きることなく、いまでも聴いている。


シフが弾くバッハ。


この曲の録音の中ではグレン・グールドによる2枚とマレイ・ペライアがかなり素晴らしいが、アンドラーシュ・シフが21世紀になって録音した本作もそれらに並ぶものだ。


Goldberg Variations

Goldberg Variations


自然でてらいのない、瑞々しいタッチ。しかも信じられないことにこれはライブ録音である。巧く見せようとか、そういうことはシフにとってはきっとどうでもよいことなのだ。どうしてこんなに、自然に、自由に弾けるんだろう。


詩人のように自由な魂の遍歴をこの演奏の中に聴くことができる。いったいどうやったらこの境地に至ることができるのか見当もつかない。なんというか、これは悟りを開いたレベル。


このCDを聴きながら自分が取ったメモを読み返してみる。


「第12変奏・たっぷりとした構成感からはすべての音符に対する敬意が伝わってくる。」


「第14変奏・みなぎるような演奏。鮮烈で自在。」


「第16変奏・本格的なドラマ。3分以下の曲のなかに上質な長編小説のようなドラマがある。」


メモの中に、この演奏に聴き惚れたことがわかる表現が並ぶ。


最初と最後のアリアと全30変奏。自由で自然なバッハだ。まるで30編の詩集を編むような、まるで詩人が詠うようなバッハ。しかし、こういう演奏は自由で自然に過ごしてきた人からは生まれない。厳しい研鑽を経た人だけがたどり着ける境地だ。シフのこれまでのピアニストとしての厳しい研鑽が伝わってくるようなある意味すさまじい演奏で、これは当分、聴き浸ることになるだろう。


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