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エフゲニ・ボジャノフ


2010年のショパン国際ピアノコンクールで、審査員を務めたマルタ・アルゲリッチは、優勝したユリアンナ・アヴデーエワの他に、ダニール・トリフォノフとエフゲニ・ボジャノフの名前を挙げて称賛した。


トリフォノフは3位、ボジャノフは4位という結果だったが、順位以上の注目を集めた2人だった。トリフォノフは、長身と端正なマスクに加え、端正なマスクからは想像できないほどの作品への没入ぶりと異様に透明感のある音色が特色で、一躍人気者となった。楽器には、イタリアの高級ピアノメーカー『ファツィオリ』を使用したことも話題となった。そしてボジャノフ。今夜の話題にするピアニストだ。


Chopin: Works for Piano, Conce

Chopin: Works for Piano, Conce


ショパンコンクールのライブCDが発売されていて、ボジャノフのバージョンもあったので、だいぶ前のことになるが、買って聴いてみた。


ボジャノフの演奏はコンクールの動画で部分的に見てかなり個性的だと思ったが、こうやってまとめて聴いてみると、「格付け不能「と感じた。むしろ、4位を与えた審査員に勇気がある。あるいは、「1位」か、「1位なしでボジャノフは落選」というのが、ボジャノフのピアニストとしてのスケールの大きさを見るのに適切だったのではないかと思った。


その演奏はくせになる。アヴデーエワの演奏が、知的でありながら女性らしい優しさを感じさせるものならば、ボジャノフの演奏は、まるでピアノの化身のようだ。ホロヴィッツのような伝説的なピアニストを思い出させるような、おそろしいほどに巧いピアノで、ピアノというのはこうも雄弁な言葉を話すのかと驚き、茫然自失となる。豪快でありながら優雅な演奏に快感を覚える。


解釈も独特で、この人は、楽譜を忠実に再現することではなくて、自分の中の音符を外に出すこと、自分の信念で弾くことがショパンを現代に甦らせることだと確信している。そんなふうに思った。ボジャノフはひょっとしたら天才かもしれない。


しかしこのコンクールは優れたピアニストを選ぶコンクールではない。誰がポーランドショパンをもっともシャパンらしく弾くか。それを決めるコンクールだった。だからこの演奏が4位というのがすごい。(しかしボジャノフ本人はこの順位に納得せず、表彰式に出席しなかった。またその後のガラコンサートもキャンセルした。)


このCDでは、そんな「くせになるピアノ」を堪能できる。ピアノ協奏曲はちょっとオケとかみ合っていない部分も見られたが、『マズルカ風ロンド』、『幻想ポロネーズ』なんて、ボジャノフ節が全開で、他では聴くことのできない独特な音を聴くことができる。


ピアノソナタ第3番がなぜか、まるでリストの作品のようにデモーニッシュに、諧謔的に響く。


ピアノ協奏曲第1番も凄かった。オーケストラによる美しく長い前奏部分を終えてソロパートに入る瞬間、叩きつけるような強烈な打鍵。新しい時代を自ら切り開くような鮮烈な始まりだ。そして流れるようなパッセージ。時に近寄りがたく、また撫でるように優しくて、非常に多彩である。ピアノと戯れる。才能が溢れ出す。コンクールには収まりきらない才能なのか。オーケストラとの調和という点でいうと、優勝したアヴデーエワや2位だったヴンダーの方が完成度が高く感じたが、ピアニストの力量という点では、計り知れないものを味わわせてくれた。


もしボジャノフのピアノを聴いたことのない方は、下記のように『YOU TUBE』にも多数アップされているので、ぜひ一度、聴いていただきたい。


http://http://www.youtube.com/watch?v=XSW2t_IlFJ4


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