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ラファウ・ブレハッチの『ポロネーズ集』


ラファウ・ブレハッチの新譜が発売された。ショパン作品としては、2009年10月のピアノ協奏曲集以来、およそ4年ぶりとなる録音。


ブレハッチは私が最も好きなピアニストであるが、そのブレハッチを別にして、最近出てきた若いピアニストの中では、私はユリアンナ・アヴデーエワがもっとも好きで、この2年くらいずっと聴いている。アヴデーエワの弾くピアノは、若さに似合わない成熟を感じさせる。一言でいうと「貫禄の演奏」で、大胆な解釈とともに、用意周到な、計算し尽したような演奏をする。それでいて冷たさを感じさせない、温かい音色を持っている。まだ若いのに、彼女の音楽IQの高さと、豊かな音楽性を称えずにはいられない。アヴデーエワは、私の中で、信頼すべき音楽家のうちの一人となっている。どの曲を聴いても、音楽家としての懐の深さを感じさせる演奏を聴かせてくれて、まるで、よくできた小説に没頭するように聴き浸ってしまう。アヴデーエワで満足し、ブレハッチショパンからは、新譜が発売されないこともあって、しばらく離れていた。


そんな中、ブレハッチの『ポロネーズ集』が発売された。久しぶりに聴いたブレハッチのピアノ。期待は裏切られなかった。


ショパン:ポロネーズ集

ショパン:ポロネーズ集


ハイドンモーツァルトベートーヴェンに挑戦した『古典派ピアノソナタ集』の録音を経験し(このCDはかなりの評判となった)、その後、ドビュッシーをものにして、再びショパンに戻ってきた時、ブレハッチはさらにスケールの大きなピアニストとなっていた。ショパンコンクールの頃よりも、自信に溢れ、力強さを増した。


1番からまずそのテンポの速さに驚く。聴く前はやや速めを想定していたが、かなり速めのテンポが採られている。2番も同じく速い。ポリーニの超絶技法に最初に私が驚いたのがこの曲の録音だった。ブレハッチはそれよりもさらに速いテンポで駆け抜ける。勿体ぶったところは一切なく、一気に行く。鮮やかだ。3番『軍隊』。最初から最後まで力強い。4番だけはそれほど速くない。重厚。5番。あれ、この曲、こんなに素晴らしい曲だったかな。この演奏は、突き抜けている。この曲の録音史上最高の演奏なのではないか。6番『英雄ポロネーズ』。名曲。ブレハッチのノーブルなピアノはこの曲と相性が良い。何度聴いても、いつもなんて素晴らしい曲なんだと感動する。


ブレハッチのピアノには変な癖がない。無欲である。弾きすぎない。超絶テクニックを売りとするようなアスリート化したピアニストとは対極に位置する。控えめで、どちらかというとそっけない。しかし、よく聴けば、ただならぬ価値にただちに気付かされる、燻し銀のようなピアニストだ。テクニックの高さが話題となるピアニストではないが、テクニックも申し分なく、レベルが高い。タッチは精密で繊細で、強く弾いても濁らない。冬の朝の空気のように澄んだその音色は、代えがたい魅力を持っている。動画で見ると、ブレハッチは、細くて長い、ピアニストにとって理想的な指をしていた。


最後の7番『幻想ポロネーズ』は凄い。凄みすら感じさせるような凄絶な演奏。「気が付けばそんな高いところまで登っていたのか」と思う。曲調が違うということもあるが、まるでこれまでの6曲が前奏であったかのように、世界が違ってしまっている。これは是非聴いてみてほしい。


最近よく聴いていたアヴデーエワとはブレハッチはまるでタイプのピアニストだったなと改めて思った。アヴデーエワが物語を見せてくれるような意図的な演奏をするのに対し、ブレハッチのピアノは基本、構えず、自然である。しかし自然なこういう音楽ができるのは天性である。この宝物のようなポロネーズ集をずっと聴いている。


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