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『グリルミヤコ』のビーフシチュー


その日私は午後6時に仕事を終え、6時半には阪神高速神戸線の高速道路上にいた。生田川付近で渋滞3キロと表示があったが、意外にも渋滞の列は早く進み、それほど時間がかかることなく、京橋インターを降りることができた。


栄町通を走り、元町よりもかなり神戸寄りのパーキングに車を停めた。この辺りのパーキングの料金は、20分200円から300円くらいが相場だが、一大観光地である南京町に近づくほど駐車料金が高く、遠ざかれば遠ざかるほど安くなる。中には、30分200円、40分200円というところもある。私は、40分200円のパーキングに車を停めて、元町方面に歩き出した。


神戸、とくに三宮や元町の周辺を歩いていて思うのは、夜が早いということだ。三宮の北口は遅くまで賑やかだが、元町商店街は夜の早い時間、7時くらいからシャッターが閉まり出し、人通りも少なくなる。その一本南、二本南の通りはさらに暗く、夜でも開いている飲食店やカフェの灯りが点在するだけとなる。それらの店も、10時11時まで開いているところは大変少なく、9時にもなると結構いい時間になってしまう。以前に三宮に泊まった時に、遅くに開いているカフェを探し歩いて店に入ったものの、9時半頃に入って10時で閉店になってしまったことを思い出した。


そんな暗がりの一画に『グリルミヤコ』はある。もともとは商船のコックだった先代が北野の中山手通に開いた店だが、代が変わり現在の所在地に移転している。外観は、洒落たビストロという雰囲気である。暗い街の先にオレンジがかった灯りを発見した時、なぜかホッとした気持ちになった。


店に入るとそれほど混んでいなかった。二人組の女性客と、カップルが一組。私は一人だったのでカウンターに通された。水とおしぼりがすぐに出される。メニューはテーブルに立てかけられていた。


私の目当てはシチューだった。『グリルミヤコ』は、私の洋食屋巡りのバイブル『京阪神の洋食』というムックの中で、1ページが割かれ、以下のように紹介されている。


「かつて貨客船のコックの間では「あの船のソースはうまい」と聞けば分けてもらい、自分のソースに足すと「エスプリ(気持ち)が入る」と言い、おいしくなると信じられた。45年前、先代が店を開く時、携えたのは幾多の船の味が溶け込んだドゥミ(デミ)グラスソース。以来、震災を乗り越え、追い足し続けたソースはまさに店の魂だ。」京阪神エルマガジン社京阪神の洋食』より


私は魂の料理をぜひ食べておきたかった。タンシチューかビーフシチューか。私はタンは好きでもレモンを絞るような焼肉のタンの方が好きなので、ビーフシチューを注文した。



まずはサラダからスタートする。洋食屋のサラダはドレッシングに凝っているので好きだ。


客はそれほど多くないのに、店のご主人は忙しそうにしている。もちろん料理を作っているのだが、全体的には大半がソースに集中しているように見える。私が見た範囲では、ソースに使う野菜をずっと切り続けている。ソースの仕込みが基本となっていて、それはこの店に対するイメージを裏切らないものだった。


私の前にメインのビーフシチューが登場する。



ビーフシチューはソースを食べるものですので、最後は付け合わせのマッシュポテトを絡めて召し上がってください。」確か、そう言われた。


マッシュポテトが土手の役割を果たしていてたっぷり敷き詰められたソースが逃げないようになっている。


牛肉はとても柔らかく存在感たっぷりだが、主役はソースかもしれない。酸味と塩気と甘みと少々の苦み。複雑なハーモニーを醸し出す。濃厚な旨みの詰まったソースだった。牛肉を切り分け、ソースに絡めて口に運ぶ。


マッシュポテトを崩すと、ソースが逃げそうになる。逃げそうになるソースにマッシュポテトを絡めて食べる。それがとても合う。こういう食べ方は、日本で食べる皿ではないようだ。


この料理の場合、主食はライスでなくてパンだろう。ソースはたっぷりで、マッシュポテトだけでは余ってしまう。パンにして正解だった。パンで皿を拭きとるように最後までソースを食べた。『グリルミヤコ』のソースは、そのソースにかけた人生を感じさせる深い味だった。


「ごちそうさまでした。」私は幸せな気分で店を出て、暗がりの中に戻っていった。

【グリル ミヤコ】

住所:兵庫県神戸市中央区元町通5-3-5 ヴィラ元町
営業時間:11:30〜20:00(L.O)
定休日:月曜日


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