『志津可』
とくに用事のない休日(平日の休み)には、うなぎ屋に行っている。
予定や用事のない休日に何をするか。朝遅く起きて、朝食を食べる。本を読んだりしていると昼になる。簡単な昼食を済ませたあと昼寝もする。確かにそういう休みも必要だ。しかしそんな過ごし方をした休日の夕方には、決まって、「その貴重な休日に何をしたのか」振り返り、とても切ない気持ちとなる。しかし、うなぎ屋に行った休日であれば、「すくなくとも今日はうなぎを食べに行った」と振り返ることができる。だからそんな休日にはうなぎ屋に出掛けていく。
先日、何も予定のない休日に行ったのは、『志津可』という店だった。だいぶ前に行ったのでもっとはやくに書くつもりだったが(時期は、京都の紅葉、天橋立弾丸トラベルの前にあたる)、年を越してしまった。
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地下鉄御堂筋線の淀屋橋で地下鉄を降りて、土佐堀川と堂島川という二つの川を渡る。それら2つの川が中州となっているのが中之島で、西にリーガロイヤルホテルがあり、中央にフェスティバルタワーが、東に中之島公会堂がランドマークとなっている。その日歩いたコースは中之島の東の方で私は東洋陶磁器美術館を横目に見る。
堂島川を渡り、天満警察署交差点前を東に曲がったところに店はあった。道を挟んだ北側には、巨大な大阪弁護士会館がある。トータルでは駅から15分くらい歩いたところだ。
店を眺めると、昔ながらのうなぎ屋らしい風情がある。近代的なビルでない方が、美味しそうに見えるから不思議である。うなぎ屋というジャンルで、川沿いにあるこういう雰囲気の店は絶対に美味しい。店に入ると、結構賑わっている。平日の昼にこういう店に出入りするのはどんな人たちだろうか。真面目なスーツを着た人は一人もいない。高い車に乗っていそうな人が多いような印象を受ける一方、年金生活者の中でも余裕のありそうな年配の客層。あるいは、食べるのと出掛けるのが好きな一人客。そういう客は絶対に料理の写真を撮っている。私もそのうちの一人だ。私は入り口付近の席に通された。川を眺める席もあるので、次は予約して行ってみよう。
弁護士会館前なので、弁護士の出入りも多いことだろう。
『志津可』は、大阪のうなぎ屋だが、江戸風のうなぎが食べられる店である。うな重は上で2,400円。使われているうなぎは国産の養殖ものだ。1匹丸々使われているが、身の大きさは大きいものではなく、どちらかというと小ぶりである。それにはお店のポリシーがあって、大きすぎるものは小骨も大きいため、食べにくく、味も大味であるからだという。
タレはやや甘めで、そのあたりが純粋な関東風のうなぎとは違うかなとも感じた。しかしこれはアリだ。肝心のうなぎは、言われれば確かに細身のように感じるが、口の中に入れるとホロホロと溶けるようで絶妙。しっかり上品なおいしさで、脂っこさもなく、臭みも皆無だ。
違う角度から撮ってみた。美しく、絵になるうなぎである。
まず2,400円という値段が絶妙である。高価ではあるが法外ではない。うなぎとはこういう、少しだけリッチな食べ物だったはずだ。いまではうなぎというと、専門の店では5,000円近く覚悟しなければ本当に良いものが食べられなくなってしまっている。コース料理を食べるような予算が要る食べ物となってしまった。しかし2,400円ならば、時々、通っても良い。
店を出た後、スタミナが付いたような気がして、少し遠くまで行ってみたい気になった。再び二つの川を渡り、電車を乗り継いで大阪城北詰の藤田美術館まで行ってきた。そのため、うなぎだけの休日ではなくなった。