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インゴルフ・ヴンダーの協奏曲アルバム


今日は、最近よく聴いている一枚のCDのことを書きたい。


最近のクラシック音楽のCDは音質が素晴らしい。ダイナミックレンジが広く、音響も立体的だ。このアルバムは、特にライブ録音だということもあって、ホールを鳴らしているような、空気の震えのような、臨場感がすごくある。だから、演奏者がやりたいことが、細かいニュアンスまでよく伝わってくる。と、それはさておき。


チャイコフスキー&ショパン:ピアノ協奏曲第1番

チャイコフスキー&ショパン:ピアノ協奏曲第1番


そのCDとは、インゴルフ・ヴンダーが、アシュケナージが振るサンクトペテルブルク・フィルとのコンビで、2つの協奏曲を演奏したアルバムのことだ。音源は、2012年6月ののサンクトペテルブルクの白夜祭のライブである。


インゴルフ・ヴンダーは、2010年のショパンコンクールで第2位になった若手のピアニストで、世界中で演奏活動を続けている、現在売れっ子の演奏家のうちの一人だ。


収録されている曲は、チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番と、ショパンのピアノ協奏曲第1番というどちらも名曲中の名曲。だが、このカップリングは意外に珍しい。だいたい、チャイコフスキーなら、1曲だけで終わりにするか、他の管弦楽曲カップリングされるだろう。またショパンだったら普通は2番と合わせる。意外に珍しいプログラムだが、私が好きな2曲のカップリングなので、とてもうれしい。


結論から言うと、とても好ましい演奏だった。歴史に残る名盤や、畢生の名演ではないかもしれないが、たとえば、演奏会の後、「今夜の演奏会の演奏はよかったな」としみじみと振り返ることができるような演奏だった。


まず、チャイコフスキーの演奏は、まるでショパンチャイコフスキーの演奏をしたらこんな感じだろうなというものだ。チャイコフスキーのコンチェルトには、私は、できれば、地を這うような、ゴツゴツとした演奏を求めたいが、ヴンダーの演奏はそういうタイプではない。軽やかで、淀みがなく、絹のように滑らかなタッチで、まるで水が高いところから低いところに流れるように自然で、その水はきっと澄んでいる。テクニックは申し分なく、溌剌とした、粒のそろった美しい音色と、癖のない音楽性。若いピアニストらしく、思い切りのよさも見られるし、つまり才気に溢れている。私が最初に、ヴンダーというピアニストを知ったとき、生まれも育ちも性格もよさそうな若者なので、「いいところの兄ちゃん」という印象を強く持ったのだが、その印象は全く変わっていない。しかし単なる若いピアニストだったら、なかなかここまでは来れない。ヴンダーは、ステージで躍動するコンサート・ピアニストだ。当初は、「これはチャイコフスキーなのか?」と思ったが、そんな違和感も演奏が進むにつれて消えていった。これはこれでとても良い演奏なのだ。


アシュケナージの振るサンクトペテルブルク・フィルは深刻な演奏ではなく、若いソリストのサポートに徹しているように見える。音色もこのオケにしては軽く、この曲の往年の名盤の雰囲気とは一線を画している。


ショパンの方はどうか。こちらはもう余計な説明が要らない。ショパンコンクールでは、コンチェルト賞を獲ったこともあり、ヴンダーは協奏曲が得意だ。オーケストラとのコンビはばっちり。最初から最後まで引き込まれてしまう。コンクールの時から比べると、若さに加えて、幅が出たというか、余裕があるというか、これはもう、お金を払う価値のあるプロフェショナルなピアニストとなっている。


ヴンダーは演奏するときの姿勢もすっと背筋が伸びていて、姿勢が良い。中には猫背で変な姿勢なのに物凄い音を出すピアニストもいるが、演奏姿が決まっているピアニストというのは、見ていて、とても気持ちが良いものだ。実際にはその姿を見ていないのに、想像できてしまう。


今日は良い演奏聴かせてもらった。そう思えるCDだった。気持ちはサンクトペテルブルクに飛んでいた。


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