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滋賀の旅・2015夏(1)比叡山宿坊


昔、レンタカーを借りて比叡山に向かおうとしたとき、カーナビに『比叡山延暦寺』と入力し、何度やってみてもヒットせず、困ったことがあった。その時、私は京都の洛北にある曼殊院の駐車場にいて、市街地からは離れたところなので、狐か狸に化かされたような気分だった。「あれ?」、「あれ?」と何回やっても比叡山延暦寺にかすりもしなかったのだ。しかしその理由はとても簡単なことだった(その時、私は「京都府京都市」→「は」行で検索していたのだが)。比叡山延暦寺の住所は「滋賀県大津市」であった。


馬鹿馬鹿しい作り話のような、本当の話である。そんなことを急に思い出した。


以来、何度も比叡山には訪れているが、その度に気になっていた場所があった。延暦寺の敷地内に『延暦寺会館』という宿坊がある。『根本中堂』、『講堂』のように、『延暦寺会館』と案内図にも書かれている。また、宿坊業界?でも有名な宿坊で、除夜の鐘を優先的に突くことができる年末年始の宿泊が特に人気がある。私はそこに「いつかは泊まりたい」と思っていた。宿坊はホテルや旅館とは雰囲気が違う。お寺に泊まるというのが一風変わっていて、良い。それも、日本でも第一級の聖地であり、世界遺産でもある比叡山延暦寺である。そして、今年の夏休みに、予約して、家族で泊まることができた。


比叡山に行くとき、京都市内から比叡山ドライブウェイを経由していくことが多いのだが、今回は、滋賀の仰木から奥比叡ドライブウェイを通っていくことにした。



大津にある滋賀院。いきなり朝から比叡山に向かうのは早すぎるので、大津市坂本の周辺を散策した後、昼食を食べ、満を持して比叡山に向かう。奥比叡ドライブウェイの料金所を過ぎる。ここを過ぎるということは延暦寺の境界に足を踏み入れるということだ。


■横川


比叡山には東塔、西塔、横川という3つのエリアがある。京都市内から、比叡山ドライブウェイを通って行くと、有名な根本中堂がある東塔エリアが近い。電車と徒歩で行く場合の京都からの八瀬ケーブルでも、滋賀からの坂本ケーブルでも同様である。反対に、奥比叡ドライブウェイから行くと、最初に訪れるのは横川エリアになる。




木漏れ日の中を歩く。日陰なら涼しいかと思うとそうでもなくて、市街地よりは幾分マシとはいえ、夏の比叡山はやはり暑かった。


横川は私が好きなエリアだ。というかどこも好きなのだが、もし延暦寺に初めて行く人が、根本中堂のある東塔だけ行って終わりにするというのであれば、実に勿体ないことだ。横川エリアは、まるで別のお寺かと思うくらい、全然雰囲気が違っている。西塔も良いが、私は横川が好きだ。トレッキングならぬ「寺ッキング」という言葉があるが、まさにそれだ。適度にアップダウンのある参道を適度に歩くとお堂が点在していて、飽きない。横川中堂も、元三大師堂も、独特の雰囲気があってよい。



せり出したようになっているのが横川中堂である。新西国霊場の札所で、横川散策のハイライトである。このために訪れる価値があるくらいの、何とも美しい聖観世音菩薩が本尊である。



元三大師堂。四季講堂とも呼ばれ、古来より四季を通じて日夜、講義が行われたそうである。おみくじ発祥の地とも言われている。元三大師堂では、私の子供が帽子を被ったままお堂に入ってしまい、和尚さんに注意される。自分は被っていないので、うっかりしていた。失礼なことや悪いことをしたらきちんと叱ってくれる。しっかりされている。今度から気を付けよう。


再び駐車場に戻ってきて、車を走らせる。横川から次のエリアである西塔までは4キロくらい。その途中に、ドライブインがある。『峰通レストラン』というお店だ。暑い日だったので、こまめに休憩を取らないと、熱中症になってしまう。



かき氷で生き返った。今年の夏はかき氷をよく食べた。喫茶店でもアイスコーヒーではなくかき氷をよく注文した。暑い夏だった。


■西塔


休憩後、車を走らせて、西塔エリアの駐車場に到着する。西塔エリアは、横川よりも人出がある。東塔から徒歩でも十分いける距離だからだだろうか。


車を停めた後、緩やかな勾配の坂を下って行き、左に曲がると、常行堂とにない堂という2つのお堂がある。その間を抜けて、石段を下って行く。石段を下ったところには、比叡山の中でも最古の釈迦堂がある。




釈迦堂。最澄自刻の釈迦如来秘仏)が本尊だ。


■東塔〜宿坊に泊まる


横川と西塔を歩いた後、東塔に着く。講堂や根本中堂に参拝した後、いよいよ宿坊に向かう。


延暦寺会館』はいわゆる宿坊のイメージとは異なっており、ずいぶん近代的だ。まるでホテルにチェックインするような感じで、名前を言い、入浴可能時間などの注意事項が説明され、鍵が渡される。しかしホテルや旅館ではないので、研修に来ているような若いお坊さんがいたり、延暦寺の和尚さんも出入りしている。また荷物を運んでくれるスタッフもいないので、荷物は自分で部屋まで持っていく。



湖側指定のプランだったので、琵琶湖が一望できる部屋だった。



こういう風景を想定してはいたが、実際に見ると感動が違った。部屋は大人二人と子供一人では使い切れないくらいの広さで、掃除も行き届いていたが、掃除だけでは磨けないような清潔さを感じた。


風呂は温泉ではないが、広く、清潔だった。風呂の窓からも琵琶湖を見渡すことができ、あまりにも気持ちが良くて、私は子供と一緒に2回入った。当日の宿泊状況は学生の団体も入り結構埋まっていたようだが、風呂では誰とも出会わなかった。



楽しみにしていた精進料理。使用されている食材は、胡麻豆腐、山菜、ひじき、冬瓜、豆、南瓜、湯葉など。肉や魚、卵は使用されていない。デザートは果物と生麩である。



天ぷらは揚げたてではなく、予め用意されていたものだったが、味は一流だった。滋賀の赤こんにゃくなどの名物もあるし、魚ではないが刺身もあった。鍋も普通の旅館なら鶏や牛のはずが、「行者鍋」という、豆腐と山菜の鍋だった。肉や魚をいっさい使わない料理なのに、これほど目にも楽しめるのはすごいことだ。


宿坊の何が良いか。それはホテルや旅館では味わえない体験ができるということだ。朝のお勤めに参加できたり、自分で布団を敷いたり(『延暦寺会館』では敷いてくれる)、出てくる料理が精進料理であったり、普通の宿泊とは違った体験ができる。『延暦寺会館』は快適すぎるのでその要素は薄まっているが、宿坊に泊まるということは、つまりは「修行」なのだ。また、一般参拝時間が終わった後、境内を散策することもできる。



というわけで、夕食後、境内を歩く。延暦寺会館の一組の宿泊客とすれ違ったが、他には誰もいない。



根本中堂の前に行っても誰もいない。



いつもなら写真を撮るときに人が入らないように苦労するこの風景。誰もいない。



周囲は次第に色を失い、闇の要素が増してきた。途中、自警団の方から「延暦寺会館にお泊りの方ですか」と声をかけられた(延暦寺境内には自警団の詰所があり、消防車もある)。



ライトアップされてもう少し明るいかと思ったが、全然そんなことはなく、自分たちが闇の一部になりそうだったので、宿坊に帰ることにした。



部屋に帰ると、すっかり暗くなっており、窓から琵琶湖の美しい夜景を見ることができた。



夜は更けていく。館内の自動販売機でビールを売っていたが買わなかった。これは修行の一環だからと断念したわけではなく、日中の疲れが優った。


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