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ティーレマン&SKDによる交響曲全集


年末も迫ったこの時期、12月30日にブラームス交響曲全集を聴いている。


交響曲全集というと敷居が高いが、ブラームスなら4曲だけなので、最低2枚、多くても4枚で全集を組むことができる。全集として発売されていなくても4曲買えばよいだけなので、勝手に全集ができる。枚数が少ない分、買うのも負担が少ないし、2時間もあれば全曲聴き通せるので、気楽な気持ちで手に取ることになる。それなのに楽曲の良さは甲乙つけがたい、クラシック音楽の傑作中の傑作で、まるで東大寺戒壇院の四天王像みたいに(変な例えですみません)、4曲とも突出している。後は、完全に好みの問題となる。


ブラームス:交響曲全集、協奏曲集(DVD付)

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私が最近特に気に入っているのは、クリスティアンティーレマンとシュターツカペレ・ドレスデン(以下、SKD)による交響曲全集で、これはもう渾身の演奏という他ない、素晴らしい演奏である。もともと、ブラームス交響曲全集は、私にとっては、クルト・ザンデルリンクが同じくSKDを振った録音(全集でなく単体で発売)と、ヴァントの旧録音(90年代の新録音でなく1982年〜85年の方)が双璧だったが、今度のティーレマンの録音はそれらに肉薄している。


ブラームス:交響曲第1番

ブラームス:交響曲第1番


ブラームス:交響曲全集

ブラームス:交響曲全集


ティーレマンの全集からは、まず指揮者の「テンションの高さ」がひしひしと伝わってくる。ティーレマンは、2004年から2011年までミュンヘン・フィルで音楽監督を務めた後、2012/2013シーズンより首席指揮者に就任した。このCDは、就任直前から、就任1年くらいに録音されたものだ。オーケストラはブラームスを得意としてきた、シュターツカペレ・ドレスデンティーレマンは、そのサウンドを遂に手に入れた。憧れのオーケストラが自らの手足となっている。充実の演奏である。

≪CD3枚組≫
交響曲第1番ハ短調 2012年10月録音
・悲劇的序曲 2011年6月録音
交響曲第2番ニ長調 2013年1月録音
・大学祝典序曲 2013年4月録音
交響曲第3番ヘ長調 2012年10月録音
交響曲第4番ホ短調 2013年4月録音
≪DVD付き≫
・ピアノ協奏曲第1番ニ短調(ピアノ:M.ポリーニ) 2011年6月録音
ピアノ協奏曲第2番変ロ長調(ピアノ:M.ポリーニ) 2013年1月録音
・ヴァイオリン協奏曲ニ長調(ヴァイオリン: L.バティアシュヴィリ)2013年4月録音


ティーレマンは体が大きい。ドイツ人の平均的な体格はこのくらいなのだろうか。肉付きもよいが、肥満ではない。髪は金髪で、顔は血色がよく、知的で厳格そうだ。表情は柔和だが、怒らせると怖そうだ。体格の良さもあって、存在感は抜群で、指揮台に立つと、自然な威圧感がある。長めの指揮棒を下から上に振る独特なスタイルで、オーケストラを引っ張っていく。指揮者には、一緒になって音楽を作るタイプ、自発的に音楽をさせるタイプ、職人肌、カリスマ、屈服させるタイプ、様々なタイプがいるが、ティーレマンはどれだろうか。私には、自分の信念で先頭に立って、引っ張るタイプに見える。


彼らのブラームスの演奏は、一言で言うと、正統的なドイツ風の演奏だ。ドイツ人指揮者と、ドイツのオーケストラによるドイツ風の演奏。重心は低く、テンポは基本的には緩やかである。野球で言うとど真ん中に、重いストレートをビシッと投げ込む感じ。近頃、こういう演奏はなかなかない。もちろん、ティーレマンは現代の指揮者なので、緻密でないわけではなく、基本的には大変な繊細さをも持っているが、演奏が「大きい」。ティーレマンはやり手の指揮者であり、随分、表現主義的でもあるので、クライマックスでのテンポ設定などに芸達者ぶりも見せる。そんなことから、過去のティーレマンの演奏の中には、「巨匠」風のスタイルや、外面的な大きさとは対照的に、正直言って、やりすぎて興ざめする時がないわけではなかったが、このブラームスの中では皆無だ。大きく、しかも緻密。やりたいことが当たっている。脂がのっていて、成熟している。


そしてオーケストラの音がまた素晴らしい。シュターツカペレ・ドレスデンは、1548年にザクセン選帝侯モリッツが創設した宮廷オーケストラが前身という、世界最古のオーケストラで、独特の艶と陰影を持っている。この音は、ウィーン・フィルにも、ベルリン・フィルにもない、個性のあるものだ。私は以前、シンフォニーホールで、この音を聴いたとき、大変驚いたものだが、それがしっかり入っている。高名なブレンデッド・ウイスキーのような芳醇な香りを感じさせるようで、聴き浸ってしまう。


この全集は、1番から4番まで、隙がなく、高いレベルのテンションで纏め上げられた全集となっている。強いて言えば、1番が、やり慣れているという感じから、安心感があり、特に優れているようにも感じられるが、3、4番では、侘びた風情がよく出ていて捨てがたいし、2番の爽やかさもありとだ思う。結局、その時、聴きたい曲、好きな曲が、一番出来が良いと感じられるのかもしれない。ならばそれは、全集として理想的なことだ。


さらに、これほど素晴らしい交響曲全集が、DVD付きとなっている。そのDVDには、ポリーニソリストに迎えたピアノ協奏曲や、バティアシュヴィリを迎えたヴァイオリン協奏曲も、映像として収録されている。特に、ポリーニと共演する、ティーレマンは子供のように嬉しそうである。