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『チュニジアの夜』


先日、車を運転していたときに、不意に、あるメロディを口ずさんでいた。その曲は、ジャズの曲で、何年も聴いていなかった『チュニジアの夜』だったので、自分でも驚いた。どうして突然、この曲が出てきたのだろうか。しかもそれほど好きな曲ではなかったのに。もちろん、よく知っている曲ではあるが、第一に騒々しく、暑苦しく、大層で、どちらかと言えば苦手な曲だったのだ。


なのに、以来、目覚めたように、急にこの曲に夢中になってしまった。CDラックやクローゼットの奥のCDケースから、CDを引っ張り出してきて、聴き比べている。アフリカの風を感じるような熱狂的なリズムと、エキゾチックなメロディがいままでとは反対に心地よい。そんなわけで、ここ何日間か、聴き浸っている。


チュニジアの夜』は、1940年代にディジー・ガレスピーによって作曲されたジャズのスタンダードナンバーで、ジャズの黎明期から、数多くのミュージシャンによって演奏されてきた。録音の種類も非常に多い。


ソニー・ロリンズ


コンプリート・ヴィレッジ・ヴァンガードの夜 Vol.1

コンプリート・ヴィレッジ・ヴァンガードの夜 Vol.1


テナー・サックスのソニー・ロリンズによる1957年のアルバム『ビレッジ・ヴァンガードの夜』。昔から一番よく聴いていたのがこのアルバムだ。ピアノレスのシンプルなトリオによる演奏で、当時、『チュニジアの夜』はあまり好きではなかったが、このアルバムは本当によく聴いた(『朝日のようにさわやかに』という名曲はこのアルバムで知った)。ソニー・ロリンズの演奏スタイルは、「豪放磊落」と表現したくなるほど、気風の良いものだ。彼の楽器の図太い音によって放たれる、自由で意外性のあるアドリブがとても気持ち良い。


アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ


バードランドの夜 Vol.1

バードランドの夜 Vol.1


1954年の録音。アルバム『バードランドの夜』。ジャズクラブ『バードランド』で行われた名門ジャズレーベル『ブルーノート』のライブ録音。『ブルーノート』レーベルでも名盤として名高いこの録音は、歴史的なセッションとなっている。ドラム奏者であるアート・ブレイキーのバンドに、天才トランペット奏者クリフォード・ブラウンが参加している。彼がその2年後に交通事故で亡くなる運命であるということはその時点では誰も知らない。彼のハイノートは立派という他ない。これは天性のもので、惚れ惚れする。ピアノはホレス・シルヴァー。ファンキーで地を這うような演奏を聴かせてくれる。ベースのカーリー・ラッセル、ルー・ドナルドソンも好演を見せる。アート・ブレイキーはバンドリーダーなのに、まとめるよりも、自分が好き放題叩きまくっている。これはもう、只々、熱狂的な演奏だ。



1960年の録音。同曲と同名タイトルのアルバム『チュニジアの夜』。先述の録音と同じアート・ブレイキー名義だ。トランペットは、リー・モーガン。テナー・サックスはウェイン・ショーター。ピアノはボビー・ティモンズ。1954年の『バードランドの夜』よりも随分くだけた演奏となっている。リー・モーガンクリフォード・ブラウンと比べると、テクニックの高さは肉薄するが、もう少し派手寄りで、不良っぽい(←死語)ところが魅力だ。彼は、後に愛人に拳銃で撃たれて死亡するという、普通でない死に方をしている。ウェイン・ショーターは後に『ウェザー・リポート』というバンドを組み、新時代の旗手の一人となる。以降も第一線での活躍を続け、現在ではテナー・サックスのビッグネームの一人となっている。このアルバムでもありきたりな演奏ではなく、若いのに、熱狂的でありながら知的な演奏を聴かせてくれる。実力を持ったメンバーを従え、アート・ブレイキーは叩きまくりで煽りまくる。


ケニー・ドーハム


カフェ・ボヘミアのケニー・ドーハム(紙ジャケット仕様)

カフェ・ボヘミアのケニー・ドーハム(紙ジャケット仕様)


1956年の録音。アルバム『カフェ・ボヘミアケニー・ドーハム』。先述のソニー・ロリンズアート・ブレイキーのような強烈なカリスマ性はないが、ハードバップ期のジャズ名盤として聴かれていることもあり、いかにもジャズらしい、体が自然に揺さぶられるような、ジャズ的に優れた演奏となっている。ケニー・ドーハムは、優れたトランペット奏者であり、テナー・サックスのJ.R.モンテローズとのコンビネーションも最高だ。ケニー・バレルのギターも効いている。


M.J.Q.(モダン・ジャズ・カルテット)


モダン・ジャズ・カルテット

モダン・ジャズ・カルテット


M.J.Q.(モダン・ジャズ・カルテット)による1957年の録音。アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズと比べると、同じ曲というのが信じられないくらい、大人しい演奏である。一言で言うと「端正」だ。これでもM.J.Q.のアルバムの中ではファンキーでブルージーでアーシーな方だが、比べる対象がすごいので、「端正」でクールに聴こえる。私はこのバンドのピアニストのジョン・ルイスの演奏がとても好きで、他のアルバムでも彼の演奏の場面を心待ちにするようにして聴いているのだが、あまりの気持ちよさに、いつも心を鷲掴みにされる。


いままで好みでなかった曲が徐々に気になる存在になるのはよくあることだが、突然『チュニジアの夜』が出現したことに自分でも驚いている。チュニジアに行ったこともないのに。