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オスカー・ピーターソンの名盤5枚


私は、はてなダイアリークラシック音楽のブログを書いているのに、意識的に趣味として音楽を聴きはじめた頃、元々は、ジャズを聴いていた。いまでもジャズには親しみがあって、よく聴く。夜も更けた帰りの車の中、静かなジャズピアノのソロを聴いているときなど、自由な魂が解き放たれ、音楽の泉で癒されるみたいで、個人的なリラックスの時間となっている。


ジャズを聴き始めた頃から今に至るまで、結構な頻度でずっと聴いているジャズ・ピアニストが二人いる(好きなピアニストというと他にもいるが、「一貫して」「ずっと」聴いているピアニストは二人しかいない)。オスカー・ピーターソンビル・エヴァンスだ。ビル・エヴァンスについては一枚のCDについて、このブログで書いたことがあったが、オスカー・ピーターソンについて書くのは初めてだ。


オスカー・ピーターソンは、テクニックの高いジャズ・ピアニストという点では、その筆頭に上がる。時代が時代ならクラシック音楽でも通用すると言われたピアニストで、(その割には現代でも黒人のクラシック音楽のピアニストはとても少ない) 、超絶技巧的な高度なテクニックが特徴で、10本の指をテキパキと動かし、豊富な手数で、グイグイと曲を進めていく。カナダ出身ということもあるのか、アーシーなうねりというか、ニューオーリンズ発祥のジャズらしい黒さは少ないが、親しみの持てるノリの良さで、恐ろしく速いパッセージでも破たんのないテクニックが披露される。カラッと晴れた空のように陽気で、力強く、ダイナミックな演奏を聴かせるジャズ・ピアニストだ。


オスカー・ピーターソンのことを評価しない人からよく言われるのは、「どれを聴いても同じ」ということだ。確かにアドリブはワンパターンなようにも感じる。得意の「型」みたいなものがあって、「そうくるか!」という意外性はあまりない。しかしその「型」は、不快なものではなく、特有のアドリブが出ると、私は「出たか!」と思う。その「型」で、聴き手の気持ちを持っていく、圧倒的なドライブ感がある。


「どれを聴いても同じ」というのは、良い意味もあって、どのアルバムを聴いても失敗がないということでもある。はっきり言って、駄作がない。どのCDを買っても間違いではないはずだ。しかし、どのCDも全く同じということはないので、今回は私が好きなCDを5枚挙げてみたいと思う。


■『ザ・ウェイ・アイ・リアリー・プレイ』(邦題『オスカー・ピーターソンの世界』)


オスカー・ピーターソンの世界

オスカー・ピーターソンの世界


冒頭の『ワルツィング・イズ・ヒップ』が強烈。ジャズって楽しい!そう思った一枚。ピーターソンの華麗なピアノ。ボビー・ダーハムのご機嫌なドラム。サム・ジョーンズの気の利いたベース。三者三様に燃え上がる演奏で、ジャズの楽しさの原点がここにある。スタンダード・ナンバー『サテン・ドール』は、懐の深さを感じる、余裕のある演奏。『不思議の国のアリス』も、スピード感が抜群で、豪快にスイングしている。可愛らしいこの曲のイメージを一変させる名演だ。


■『ウィー・ゲット・リクエスツ』(邦題『プリーズ・リクエスト』)


プリーズ・リクエスト

プリーズ・リクエスト


『ザ・ウェイ・アイ・リアリー・プレイ』(邦題『オスカー・ピーターソンの世界』)が「動」なら、こちらは「静」。ミディアムからスローテンポの曲が多く、長さも5分以内の小品が中心で、ボサノヴァとスタンダード・ナンバーがバランスよく収録されている。『コルコヴァード』、『イパネマの娘』などのボサノヴァ曲の演奏はとりわけ素晴らしい。とてもセンスの良い演奏で、ピーターソンは、このアルバムではバリバリ弾いているわけではないが、確かなテクニックと丁寧な演奏で、巧さを堪能できる。


■『マイ・フェイバリット・インストゥルメント』(邦題『ソロ!』)


ソロ!!

ソロ!!


オスカー・ピーターソンのピアノだけを聴きたいという時にはこちらのCDがおすすめだ。オスカー・ピーターソンのピアノは、完璧に巧い反面、芸術然とした陰影が薄いため、大衆迎合的と言われることもあるが、私は過度に耽美的にならない、サービス精神旺盛なこういう演奏がとても好きだ。


■『ナイト・トレイン』


ナイト・トレイン

ナイト・トレイン


冒頭の『C・ジャム・ブルース』から、『ナイト・トレイン』、『我が心のジョージア』、『バグス・グルーヴ』と、名曲の嵐。しかしそれだけなら他のCDも同じだ。なにしろ、オスカー・ピーターソンのアルバムは「どれを聴いても同じ」で、駄作がないのだ。だから何より、このCDでは最後の曲『自由への賛歌』を聴いてほしい。スケールの大きなバラード曲で泣ける。


■『ライブ・アット・ザ・ロンドン・ハウス』



『アイ・リメンバー・クリフォード』が白眉。静かに始まる演奏が、次第に熱を帯びてきて、最後は熱狂的に終わる迫真の演奏。オスカー・ピーターソンの全録音の中でも最上位に近い位置にある素晴らしい演奏である。続く『枯葉』は、前曲のテンションの高さそのままに熱演を繰り広げる。


この5枚以外では、ギタリストのハーブ・エリスと共演した『ハロー・ハービー』、ピアノトリオの『ガールトーク』、『ザ・トリオ』もおすすめできる。私はオスカーピーターソンのCDを全部持っているわけではないが、持っているものはすべて良い。恐るべき平均点の高さ。