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ドヴォルザークの交響曲全集(ノイマン×チェコ・フィル)


先日、音楽を聴くときに私は、何を聴こうか突然、迷ってしまっていた。「いま」何を聴きたいのか。


ベートーヴェン。いまは聴きたくない。モーツァルト。ちょっと違う。ブラームス 。違うかもしれない。マーラーという気分でもない。ブルックナー。もっと時間があれば聴きたいが。あるいは器楽でどうか。ショパン。そういう気分でもない。ドビュッシー。違う。


そしてipod touchをスクロールさせていって、「D」のところに、ドヴォルザークがあった。そういえばドヴォルザークを最近ほとんど聴いていなかった。これならいけるかもしれない。私は8番が一番好きなので、とりあえず8番を聴きはじめた。そうすると、それがすごく良かった。ばっちり合っていた。そうか私はいま、ドヴォルザークを聴きたかったのかと気付いた。


ドヴォルザークは、クラシック音楽を代表する大作曲家で、交響曲第9番『新世界より』のように、知らない人がいないくらいに有名な曲を書いた作曲家だ。クラシック音楽の中心地であった、ドイツ・オーストリアやイタリアから離れた現在のチェコに生まれたドヴォルザークは、ボヘミア民謡にインスパイアされた民族的な旋律を取り入れ、国民楽派の作曲家として、後期ロマン派音楽のひとつの潮流を作った。ドヴォルザークは、スメタナと並んで、チェコの国民的作曲家と言われている。壮年期には、アメリカに呼ばれ、『新世界より』と、四重奏曲の傑作『アメリカ』を書いた。


私は、もともと8番を好きだったが、優雅で壮大でいて、どこかノスタルジーを感じさせるこの曲の雰囲気が、そのときの私の気持ちと、ピッタリだったのかもしれない。二つの歯車同士が噛みあうように、ガッチリと。


続いて、3番を聴いた。この曲も元々好きだった。軽快で軽妙で、華麗な曲。3楽章構成の短い曲だが、優美さが凝縮されており、何度聴いても聴き飽きない。


その時点で私はドヴォルザーク交響曲に夢中になってしまっていた。もともと何回も聴いた、これらの曲から、新たな刺激が与えられるとは思わなかった。新しい気付きや発見がある。これは、本格的に聴き直さないといけないぞ。そう思った。


次の日、『ズロニツェの鐘』と呼ばれる最初の交響曲から聴き始めた。これこれ。ドヴォルザークの旋律だ。こういういうものを聴きたかったのだ。用事の途中だったりすると、2番や6番などドヴォルザーク交響曲の中で比較的長めの曲は途中で切れてしまうので、「次は最初から改めて次の日に」みたいな感じで、大事に聴いていった。雑に聴き流してしまったときなどは、通勤の行きと帰りで、同じ曲を聴いた。そうして、3〜4日くらいかけて最後まで聴き通した。


聴いたCDはチェコの指揮者、ヴァーツラフ・ノイマンチェコ・フィルを振った交響曲全集だった。ノイマンはもう少し若い時に一度全集を録音しているため、こちらは2回目の全集となる。出来の差はあるが、私は、できれば同じ音色、同じ響き、同じ指揮者、同じオーケストラ、同じようなテンションでドヴォルザーク交響曲を確認したかった。曲ごとに指揮者とオーケストラを変えたら、どこまでが曲の魅力で、どこからが演奏の魅力なのかわからなくなってしまう。だから曲ごとに指揮者とオーケストラを変える気にはならなかった。


ドヴォルザーク:交響曲全集

ドヴォルザーク:交響曲全集

ドヴォルザーク交響曲全集』ヴァーツラフ・ノイマン×チェコ・フィル

[Disc 1]
交響曲第1番ハ短調(B.9)『ズロニツェの鐘』/51分25秒
[Disk 2]
交響曲第2番変ロ短調(B.12)/49分32秒
[Disk 3]
交響曲第3番変ホ長調(B.34)/37分54分
交響曲第5番ヘ長調(B.54)/38分30秒
[Disk 4]
交響曲第6番ニ長調(B.112)/43分8秒
[Disk 5]
交響曲第8番ト長調(B.163)/36分1秒
交響曲第4番ニ短調(B.41)/38分25秒
[Disk 6]
交響曲第9番ホ短調新世界より』(B.178)/40分39秒
交響曲第7番ニ短調(B.141)/36分38秒

※タイトル横の時間は大体の演奏時間


久しぶりに聴きなおしたドヴォルザーク交響曲は、3楽章構成の3番などの例外もあるが、だいたいがクラシカルな交響曲らしい起承転結のはっきりした構成で、とても聴きやすかった。有名でない曲も、もしコンサートのプログラムにあれば、きっとブラボーの嵐となるような曲調のものが多い。じっさい、7、8、9番以外はコンサートでもあまり取り上げられないが、もし9番の『新世界』がメインのプログラムをやるなら、他の作曲家の協奏曲などの代わりに、3、4、5番あたりの短めの曲を前半に入れると、コンセプトの一貫した演奏会になるはずだと思う。


聴いた結果も含め、好きな順に並べてみると、8、9、7、3、2、5、4、6、1となる。ベストスリーは9番が7番に入れ替わり、4位以下の順位も大幅に変わった。


もともと全部聴いたことはあったが、今回改めて聴いてみて、7、8、9番は傑作だが、それ以外の曲の良さも知ることができた。中でも私は2番の良さに気付いた。1番の方が標題もあり、よく聴いたくらいで、2番は演奏時間も割と長いため、冗長な印象だったのだが、今回聴いたみたら、意外にも良かった。確かに他の作曲家の影響が見られ、後年のドヴォルザークらしさはやや薄味かもしれないが、随所に素晴らしい輝きがあり、大作曲家が結晶するための要素をみることができる。


そんなふうにして、8番まで聴き終えた。そして次の日、9番『新世界より』を聴き始めた。1番から順番に聴いてみた後の9番は強烈だった。これはこんなに良い曲だったのか。私は今まで、あまりにも知られている曲であるために、わかったような気になって聴いていたのではないか。濃密なドヴォルザーク体験の最後のメインディッシュとして味わったとき、この曲の凄さがわかった気がした。この曲では、50歳を超えてアメリカに渡ったドヴォルザークが、さらに前進しようと試みている。「新世界」アメリカで、ドヴォルザークが本来持っていた音楽性に加えて、ネイティブアメリカンや黒人による音楽に触発された、新しい旋律が生まれた。最後の交響曲で、ドヴォルザークは、一度山の頂上に立った後、別の大陸で見つけたさらに高い頂に到達したかのように、別のレベルに到達してしまっているのではないか。


ノイマンの全集を選んだのも良かった。このCDの演奏はとっておきの演奏というよりは、普段行く定食屋みたいなきどらない雰囲気が良い。翌朝動けないくらい全身全霊でやっているという感じではなくて、いつものメンバーでいつものホールで、職業的良心を持って一生懸命やっている感じで、その日常性が、愛聴にふさわしい演奏となっている。地元で美味しいと評判の、チェコのビアホールでいつもの煮込み料理を食べる。接客の愛想もよく、料理が出てくるのも早く、値段も高くない。ついつい通ってしまう。そんな雰囲気の演奏で、毎日聴いていた。


そして、選んだノイマン交響曲全集は呼び水となった。ドヴォルザークをこんなに聴いた日々はいつ以来だろうか。続いて、昔聴いたドヴォルザークのCDを聴いている。ケルテスやクーベリックなど往年の名指揮者の演奏も当然素晴らしい。この頃の優雅な雰囲気は最近の録音にないものだ。カラヤンジュリーニも良い。コバケンももちろん良い。日本人だが、チェコにゆかりの深い方なので、これはもうお国ものと言えるのではないか。


そうやって、最近、突然ドヴォルザークをまた聴きはじめた。