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ルイサダ『革命のエチュード〜プレイズ・ショパン』


ショパンを得意とする「ショパン弾き」のピアニストの中で、ルイサダの演奏を特に好きというわけではない。軽やかで自由で、知的な彼のスタイルより、私は真面目すぎるほどだとしても、几帳面な演奏が好みだ。しかしこのCDは手放しで絶賛している。数あるショパンのCDの中でも、相当な価値があり、聴きごたえのある一枚だと思う。


ショパンのCDは『バラード集』、『スケルツォ集』などと、ジャンルごとに録音する形式と、リサイタルのようにジャンルを跨いでプログラムを組む形式があるが、このCDは後者だ。このCDでは、その選曲と曲順があまりにも秀逸であるために、私はよく聴いている。このCDには、最初から最後まで聴き通すような聴き方が合っている。


革命のエチュード~プレイズ・ショパン

革命のエチュード~プレイズ・ショパン


このCDはパリやリスボンで上演された舞台演劇『聖なる炎』を下敷きにしている。この舞台はショパンジョルジュ・サンドの関係を描いた内容で、ルイサダ自身が出演していた。ジョルジュ・サンド役を演じたのはロシア出身の演劇女優マーシャ・メリルで、彼女がショパンへの手紙を朗読するという一人芝居のような内容だった。ルイサダは朗読の合間や朗読に重ねながらショパンの作品を演奏し、ショパン役として出演し、手紙を朗読する場面もあった。


曲は、ショパンジョルジュ・サンドと過ごした頃の作品を中心に選曲された。「(彼女が)サンドの言葉をしゃべり、私はショパンが書いた音符で語りかける。それはまるで室内楽を演奏していて、心が通い合う時の経験に似ています。*1」その舞台を下敷きに、曲を録音しなおしたものが今回紹介するCDだ。


フランスでは、劇のセリフの朗読の抜粋とルイサダの演奏を収めて舞台を追体験できるようにした別のCDがカップリングされ、当ブログで紹介する演奏のみのCDと一緒に2枚組のCDとして発売された。この2枚組盤は国内盤も販売されている。


ショパンとサンド?愛と哀しみの旋律

ショパンとサンド?愛と哀しみの旋律

ルイサダ『革命のエチュード〜プレイズ・ショパン

1. ワルツ第1番変ホ長調「華麗なる大円舞曲」op.18
2. マズルカ第12番変イ長調op.17-3
3. マズルカ第13番イ短調op.17-4
4. マズルカ第15番ハ長調op.24-2
5. 幻想曲ヘ短調op.49
6. ノクターン第8番変ニ長調op.27-2
7. スケルツォ第2番変ロ短調op.31
8. プレリュード変イ長調op.28-17
9. プレリュード ト短調op.28-22
10. バラード第3番変イ長調op.47
11. ノクターン第17番ロ長調op.62-1
12. エチュード第12番ハ短調op.10-12「革命」
13. プレリュード イ長調op.28-7


ショパンの作品だけで一枚のアルバムにするにあたっては、それだけで完結したものになるように、劇中で演奏されるものとは曲順を変更しました。もちろん私が曲順を決めています。調性・雰囲気・コントラスト・曲間のタイミングに留意しながら細心の注意を払って、曲を並べ替えたのです。いわば、一晩の「オール・ショパン・リサイタル」のような格好です。「華麗なる大円舞曲」で初めて、さまざまな作品をめぐったあと、最後は小さなイ長調のプレリュードで締めくくるわけです。最後の曲は、いわばショパン自身の署名、サインのようなものですね。*2


演奏から伝わってくるのは、まるで自分だけに語りかけてくるような親密で私的な雰囲気だ。観客にピアノの腕前を見せようとか、発表しようとか、そういう気負った気持ちがなく、二人だけの空間で、ショパンがプライベートで演奏しているような雰囲気がある。ルイサダショパンは時に洒落ていて、時に絶好調で、時に落ち込んでいる。揺れ動く感情の動きを隠さない、人間的なショパンだ。


それと、ルイサダがこだわったという曲順が素晴らしい。細かく挙げていくと、「華麗なる大円舞曲」の後に3曲マズルカが続くところ、幻想曲の後のノクターン作品27-2、スケルツォ第2番の後のプレリュード作品28-17、バラード第3番の後のノクターン作品62-1がよかった。そしてノクターン作品62-1から、「革命のエチュード」へ。やや長めでノスタルジックなノクターン作品62-1と、短くて激しい「革命のエチュード」のコントラストが素晴らしい。二人の破局を象徴するような、荒々しい流れだ。そして最後のプレリュード作品28-7は物語のエンドロールなのか。本当に寂しく終わる。


このCDを聴き終わると、上質な映画を見終えたような気持ちになる。それは物語を味わったような気持ちで、音楽を聴き終わった時とは少し違う気持ちだ。生々しくて、ドロドロしていて、切ない。他のショパンのCDとはとても雰囲気が異なっている。音楽を聴いただけなのに、ショパンの青年時代を追体験したような気持ちだと言ったら、言い過ぎだろうか。とにかく、とても聴きごたえのあるCDで、時々思い出しては、取り出してきて聴いている。

*1:ライナーノーツより引用

*2:ライナーノーツより引用