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交響曲ニ短調/デュトワ/ヘレヴェッヘ


先日、梅田のタワーレコードに久しぶりに買い物に行った。梅田のタワーレコードは大阪マルビルの地下1階にあって、昔は通勤帰りに毎日のように通っていたが、この10年近くの間、CDをネットで買うようになってからしばらく足が遠ざかっていた。


梅田のタワーレコードは大阪ではかなり規模の大きいCDショップで、ジャズとクラシック音楽については専門のテナント(ブース)を持っている。私は以前そこでよくCDを購入していたのだが、久しぶりに行ってみると、今までと何か感覚が違う。以前はポップスの広いコーナーの奥にジャズ・クラシック専門のテナントがあったように記憶していたのだが、テナント自体の位置が変わっていたのだろうか。


自分の記憶というものは意外に曖昧なものだと思った。それでも久しぶりのタワーレコードで、目当てのCDを検索して探すというのではなく、大量のクラシック音楽のCDが目の前にあるという事態にテンションが上がっていた。マイナーな輸入盤や、自主レーベルなどネットでの検索しづらいものが、目立つようにディスプレイされていて、どれを買うか迷ってしまった。


その時、気になるBGMが店内で流れていた。一歩一歩踏みしめるような重厚な「ドイツ風」の響き。独創的で、迫力満点の曲だった。よく聴いたことがある曲だが、一体この曲は何だろう。ブラームスっぽいがブラームスではない。ブラームスとサン・サーンスの間みたいな感じ。絶対に知っている曲だ。よく聴いた曲のはずだ。自分でドイツ風と思ったのにこれはドイツの作曲家ではない。一体誰の作品だったか。


これはフランクではないか。そうだ、フランクだ。ベルギーで生まれたフランクが書いた交響曲だ。すぐにはそれと認識できなかったが、わかってしまえばこれはよく知っているあの曲だ。確か、かなり晩年になってから書いた曲のはずだ。


BGMでかかってたのは第一楽章の途中だった。私がドイツ風と思ったように、確かに重々しい響きで主題が変奏されていく。指揮者とオーケストラは店内に掲示されていたのかもしれないが、そこまで調べなかった。マイナーな輸入盤かローカルなオーケストラの録音かもしれない。あるいは1950年代〜1960年代の古い録音だろうか。店内でCDを選びながら、選んでいるCDとは全然違うその曲に聴き入っていた。久しぶりに聴いたこの曲に夢中になっていた。


フランクの交響曲ニ短調は、循環形式の名曲と言われている。循環形式とは、『大辞林』によれば「多楽章の楽曲で、同じ主題や動機が全楽章または二つ以上の楽章に現れる形式」と説明されている。 共通の主題が形を変えたり転調を行いながら度々登場する。


その時私は、循環形式というクラシック音楽の用語を離れ、オーケストラの音を聴く充実感を感じていた。しつこいほどに迫る、畳みかけるような音楽。この曲の持つ荒々しい迫力に圧倒された。この曲はオーケストラを聴く喜びと楽しさに溢れている。


私がCDを選んでいる間に第一章が終わった。ひとり私は心の中で称賛していた。こんなに素晴らしい曲だったのか。じっくり聴いてみたい。家のPCのiTunesのライブラリには入っているが、持ってきたiPodには入っていなかった。私はタワーレコードでジャズのCDを買った。フランクの交響曲のCDは買わなかった。家に帰ればこの曲のCDは何枚か持っているからだ。


フランク:交響曲/ダンディ:フランス山人の歌による交響曲

フランク:交響曲/ダンディ:フランス山人の歌による交響曲


帰宅すると、私は買ったCDではなく、手持ちのフランクの交響曲のCDをまず取り出してきて聴いた。CDはまず、シャルル・デュトワモントリオール響のものを選んだ。


タワーレコードで聴いた、迫力満点の第一楽章に続く、第二楽章は、神秘的でとても味わい深い。個性の違う、尖った第一楽章と第三楽章をつなぐ緩衝材のような役目を果たしているのかもしれない。


第三楽章は、弦パートの合奏で始まり程なくティンパニの強打が加わる。様々に変奏される主題と大胆な展開に加え、突如現れる新しい旋律が少しブルックナーっぽい。温かみがあって、ノスタルジックで、最後はやや唐突に、華々しく一気に終わる。


デュトワの音楽作りは、過度に重々しくならず、色彩豊かで、流麗である。この演奏は、タワーレコードで聴いたBGMのサウンドよりずいぶんスマートな演奏だ。プロフェッショナルで現代的なオーケストラによるもので、演奏能力も申し分ない。まさにオーケストラを聴く楽しさが極まっている。カップリングにはフランクがインスパイアされたと言われる、ダンディの『フランス山人の歌による交響曲』が収録されている。


Requiem

Requiem


続いて、フィリップ・ヘレヴェッヘが自ら設立した古楽器オーケストラ、シャンゼリゼ管を振った一枚を聴く。カップリングにはフォーレの『レクイエム』が収録されている(といいうか『レクイエム』がメインの録音である)。こちらは古楽器オケということもあって、響きは随分すっきりしている。嫌みな繕いがない。まるでつなぎを使わない蕎麦のように、素材の味で勝負しているようなところがある。ところによっては純粋すぎるというかギスギスした響きと感じられる部分もあったが、この曲にはこのような無垢の姿が実は合っているのかもしれない。


久しぶりに聴いたフランクの交響曲が良かったので、買ったCDの開封は後回しになった。