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細見美術館・若冲展と『キッチンゴン』


先日、京都の細見美術館に『伊藤若冲−京に生きた画家−』展を観に行った。この展覧会は既に9月4日で終了している。2016年は伊藤若冲生誕300年の記念の年なので、大規模な回顧展が各地で開催されており、東京都美術館で開催された時には内容の素晴らしさとともに、常軌を逸したひどい混雑が話題となった。細見美術館は、京都市の岡崎にある、民間の小さな美術館で、開館自体もそれほど古くはないのだが、当初は、「琳派若冲の素晴らしいコレクションのある、京都の小さな美術館」という風情でそれほど有名な美術館ではなかったのだが、21世紀に入ってからの若冲ブームもあり、今では美術ファンにはすっかり御馴染みの美術館となっている。




細見美術館若冲展は、開催当初からかなりの人気で、私が行った日も平日なのに入場券購入の行列ができていた。せいぜい10年前はこんなに混雑することもなく空いた展示室で観ることができたのだが、「京都」で「若冲」となるとこういう事態となる。内容は、もう会期も終わっているので詳しく書かないが、東京都美術館の巡回展でもないし、有名な「動植綵絵」もなく、若冲自身の絵は全部で23点と厳選されており、大規模な回顧展というものではなかった。しかし、いつもの細見美術館の展示のように、コンセプトも明確で、コンパクトにまとまっており、とても素晴らしいものだった。


若冲ワンダフルワールド (とんぼの本)

若冲ワンダフルワールド (とんぼの本)

異能の画家 伊藤若冲 (とんぼの本)

異能の画家 伊藤若冲 (とんぼの本)


その後、どこで昼ご飯を食べるか迷った。芸術や、美しいものを見た後は、美味しい、旨いものを食べたくなる。この辺りは文化ゾーンといわれることもあって、観光エリアの割に食べるところが意外に少ない。以前、食べるところに困って、コンビニでおにぎりを買って、その場で食べたくらいだった。有名なうどん屋が2軒あるが、この時間だと行列は避けられない。もう1軒うどん屋があるが、そもそも私はうどんという気分ではなかった(暑い日だった)。平安神宮の東の境界に沿って歩けば『グリル小宝』がある。『グリル小宝』は、ハヤシライスとオムライスが美味しい(もちろん他のメニューもおいしい)。洋食にしよう。あるいは、逆方向にもう少し歩けば、『キッチンゴン』があるはずだ。『キッチンゴン』には行ったことがないが、老舗の有名洋食店として、いつか本で読んだ情報が頭の中に入っていた。手元のスマートフォンで今日が定休日でないか、また営業時間を調べて、営業していることを知ると、私は鴨川の方向に向かって歩いていく。



『キッチンゴン』。御所東店。西陣にもあって、そちらのほうが発祥だろうか。いまは京都駅にもある。名物メニューは「ピネライス」。そういう情報が頭の中に入っていた。今日京阪電車を降りた神宮丸太町駅を越えて、丸太町橋を歩いて渡り、鴨川の反対側にたどり着くと、左京区から上京区に入る。河原町通まで出て左に曲がると、『びっくりドンキー』があって、そのすぐそばに店がある。


京都のおいしい洋食88 (Leaf MOOK)

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店の入り口の上に「キッチンゴン」とカタカナで大きく書かれている。よく目立つ。入口の横幅は「町の定食屋」風に狭いが、奥に空間が広い。店に入ると、奥へ向かいながら右手にカウンターを眺める恰好となっている。奥にはテーブルがたくさんある。キャパシティはけっこうあるのではない。外観の定食屋風というか、庶民的な雰囲気と違って、内部の雰囲気は英国のパブみたいだ。外の京都の風景とは違う雰囲気だ。カウンターには『エーデルワイス』や『モレッティ』、『ライオンスタウト』など、輸入ビールが数多く並べられている。店作りには性格や好みが出る。マスターが酒に対して理解のある人なのだろうか。きっと、グリル料理を食べながら、輸入ビールをチビチビやることもできる。私は酒類を注文しなかったが、この店は昼の「洋食飲み」にも使えそうだ。


名物の「ピネライス」を是非食べたかったが、それ以外の料理も試してみたかった。メニューを見ると、料理にセットとして付けるライスは、プラス200円で小さ目の「ピネライス」つまり「ワンピネ」に変更可能と書かれていた。様々な洋食メニューの中に、「コンビネーション」メニューとして、ビーフカツとエビフライともう一種のフライというメニューを見つけた。ライスは「ワンピネ」に変更してもらった。フライには魚フライか貝柱フライを選ぶことができたので、私は迷わず貝柱フライを選んだ。私は貝柱フライに目がない。


「ピネライス」とは、ハムや玉ねぎ入りのガーリックチャーハンにカツを乗せ、カレーをかけたものだという。他の店でも、洋食というジャンルには、トルコライスとか、メキシカンサラダとか、名前を聞いただけでは味の想像がつかない、変わったメニューが多いが、「ピネライス」とは、どんな料理なのだろうか。



料理が運ばれてくる。すごい。飾らないが、豊かな感じ。一般的に御馳走としてイメージする要素がすべて入っている。エビとビーフカツの華やかさと貝柱フライの嬉しさ。バラエティに富み、量も十分で、しかもおいしそうだ。



まずエビフライ。大きめのエビが嬉しい。タルタルソースもたっぷりだ。貝柱フライ。想像以上に大きかった。ビーフカツは、ロースカツとは全く違う。変な例えになるが、ロースカツが「菩薩」なら、ビーフカツは「如来」である。好みの問題であり、どちらが良いということではないが、明らかにステージが違う。同じように肉を揚げただけなのにどうしてこのような違いが出るのか。カリッと揚がっているのに、赤身が残るメディアムレアで、トンカツの延長線上ではなく、違う世界のものだ。料理の印象としては、牛肉のたたきとかローストビーフの方が近い。


私が好きな貝柱フライはなんと2個。1個でも嬉しいのに、2個とは最高だ。レモンを絞って、豪快に1個丸ごと貝柱を口の中に入れる。贅沢に1個丸ごと食べても、まだ1個あるというのが嬉しい。



そしていよいよ「ピネライス」に取り掛かる。「ワンピネ」をアップで。「ピネライス」とは、本格的なカレーライスだった。ピリッと辛い、じつにカレらしいカレーだ。ガーリックチャーハンはそれほどニンニクの匂いもなく、カレーと比べると薄味のピラフのように感じられた。乗っているカツはビーフカツで、料理の方のビーフカツと違って、こちらのビーフカツは薄目で硬めでB級グルメ感が漂う。しかしよくあるカツカレーのカレーだって、厚めのカツでなく、薄めの、ペラペラでも、薄くカリッと揚げられたカツの方が合うので、「ピネライス」にはこの方が良い。また、カレーはちょっと、という人には、デミグラスソースのハヤシライスに変更可能だ。ハヤシ版の「ピネライス」もきっと美味しいはずだ。


「ピネライス」は全然アリだ。奇抜なメニューではなく、B級グルメの王道だ。エビフライなどの洋食を食べた上に、カレーも食べられるなんて、嬉しすぎる。私が注文した料理は1,800円近かったので、普段使いには、「ピネライス」単品で十分だ。そうすれば1,000円でおつりがくる。量は成人男性にとっても大盛クラスの量だった。満腹感を味わえる。女性には多いかもしれない。


私は全部食べた後、メニューに載っていたシーフードのグリルが気になっていた。エビや貝柱などのグリルは、この店からして、きっとおいしいはずだ。洋食を食べながらワインなどを飲める「洋食飲み」の店が雑誌などでもよく紹介されている。次回はそんな使い方をしてみたいと心に決めて、店を後にした。

【キッチン・ゴン御所東店】

住所:京都府京都市上京区河原町通丸太町下ル オーキッド山下1F
営業時間:11:00〜22:00(L.O.21:40)
定休日:火曜