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ヤンセン&パッパーノのブラームスとバルトーク


クラシック音楽を聴いていると、指揮者違い、オーケストラ違いで、自然と同じ曲のCDが増えてくる。クラシック音楽を聴かない人からすると、どうして同じ曲を何枚も揃えていくのか、理解できないかもしれない。


同じ曲のCDが増えていくのは、指揮者によって、奏者によって、オーケストラによって、同じ曲でもぜんぜん違うものになるからだ。新たな音楽体験をしたくて次々に購入していく。


そんなわけでCDが増えていく。時々自分のCDラックを見て、こんなに沢山のCDを買わなければ何が買えたか考えると、あれもこれも買えたとか、欲しかったものが次々に脳裏に浮かんでくる。しかしそれは考えないようにする。今でも愛聴しているようなCDを初めて聴いた時の感動は、他では代えがたいものだからだ。


今日はヤンセンブラームスバルトークのCDを聴く。


ブラームス:ヴァイオリン協奏曲/バルトーク:ヴァイオリン協奏曲第1番

ブラームス:ヴァイオリン協奏曲/バルトーク:ヴァイオリン協奏曲第1番


まずはブラームスジャニーヌ・ヤンセンはさすが売れっ子のヴァイオリニスト。調子がよくて、集中も申し分ない。充実した演奏だ。


現代のヴァイオリニストとして十分なテクニック、艶のある音色と繊細な表現力、豊かな音楽性を持っている。そのスタイルはムターやヒラリー・ハーンとも違っているが、明確な個性があり、主張のある音が出てくる。


指揮者のアントニオ・パッパーノは私が好きな指揮者だ。生まれはイギリスだが、名前を見てわかる通り、イタリア系で、サンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団音楽監督を務めている。彼のEMI盤のチャイコフスキーレスピーギは本当によく聴いた。他のイタリア系の指揮者と共通する個性として、オペラ的というか、溢れ出る歌心がある。好きな指揮者だ。


この曲ではオーケストラは単なる伴奏ではなく、ソリストのヴァイオリンと並ぶ主役でもある。ヤンセンの音が解像度抜群であるのに対し、オーケストラの解像度はそこそこの録音状態であり、普段のパッパーノの演奏からすると輪郭が甘い。しかしそれでもブラームスらしい迫力は十分に感じられる。実力のある指揮者のもと、オーケストラの力強いサポートを得て、売れっ子のヴァイオリニストが躍動している。


この二人の音楽性は大変よく調和している。ヤンセンは30代、パッパーノも指揮者としては若い50代。仕事をバリバリこなせる年代だ。そして歌心に溢れたポジティブな二人の音楽家の歌心が化学反応を起こし、ブラームスの重厚な音楽に彩りを与えている。


続いてバルトーク。古いものと比較的新しいものというカップリングはコンチェルトのアルバムとしては珍しいことではないが、バルトークの協奏曲(それも2番ではなく1番)を選ぶところが渋い。このカップリングというのは今までにないものだ。しかし聴いてわかるように、こうしたカップリングは双方の曲にとってプラスに作用している。対照的なものを併せることで、それぞれの良さが際立つ構成となっている。


バルトークのヴァイオリン協奏曲第1番は死後に発見された曲だ。バルトークは従来、ヴァイオリン協奏曲(現在のヴァイオリン協奏曲第2番)を一曲しか残さなかったと言われていたが、死後50年経過した1958年にこの曲が発見されたことで、唯一と言われたヴァイオリン協奏曲が2番を名乗ることになった。


この曲は、20世紀のクラシック音楽らしい、クールでミステリアスでややグロテスクな旋律が印象的な佳曲だ。第一楽章は静かで抒情的であり、第二楽章では変化が見え、多少暴れる。まさにバルトーク以外では聴いたことのないような音楽で、好きな人にはたまらないだろう。私はバルトークはそれほど親しみがなく、期待せずに聴いたが、結構よかった。親しみやすさはあまりないが、聴けば聴くほど好きになっていくタイプの曲かもしれない。バルトークが好きでない人にとってもブラームスのおまけと考えると十分。バルトークを好きになるきっかけとなる演奏かもしれない。