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いろいろな『ゴルトベルク変奏曲』


クラシック音楽を聴きはじめた頃から今までずっと好きな曲がいくつかある。『ゴルトベルク変奏曲』はそんな好きな曲の中の一つだ。最初と最後のアリアと、全部で30曲の変奏曲の中には、好きな曲、それほど好きではない曲があるが、嫌いな曲は一つもなく、当然ながら不要な曲は一つもない。それだけで完結した、完璧に調和した、ひとつの世界を描いているのではないか。完全な美しさというのはこういうことを指すのかと思う。少し聴いてみようか、という軽い気持ちで聴きはじめたのに、冒頭のアリアから、最後のアリアまで、聴き通してしまうこともよくある。


私は昔、まずグレン・グールドとマレイ・ペライアを聴き、グレン・グールドは旧録音も聴き、グスタフ・レオンハルトチェンバロ演奏版を聴き、他にも色々聴いてみて、次から次へとCDが増えていった。それらのうちのどれも違った趣があり、飽きずに、今でもかなりの頻度で聴いている。


そんな『ゴルトベルク変奏曲』は、鍵盤楽器以外でも演奏される。弦楽器版は当然ながらあるが、ギターや、アコーディオンやハープまで。他にもたくさんの楽器で演奏されている。そういうものは純粋なクラシック音楽ファンからは、際物扱いされるのかもしれないが、聴いてみるとこれがまた素晴らしいのである。私はこの曲をつくづく好きなのだと再確認する。


■ハープ版(ハープ:カトリン・フィンチ演奏)


バッハ:ゴルトベルク変奏曲

バッハ:ゴルトベルク変奏曲


まずはハープだ。親しんだメロディがこんなにも違う音色で鳴っていることに対する驚きがある。これはもうバッハではないみたいだ。どこかの島で精霊が奏でている繊細な調べのようだ。ハープの音色は、チェンバロよりもさらに素朴で、古風な響きだ。


■ギター版(ギター:カート・ラダーマー演奏)


Goldberg Variations

Goldberg Variations


聴く前の想像では最もフィットするのではないかと思われたギター版。『無印良品』の店のBGMみたいに心地よく、まるでこの楽器のために書かれた曲のように、完璧に、ギターのための音楽となっている。曲は『ゴルトベルク』なのに、聴いた印象としては、これは「バッハ」というよりも「ゴンチチ」だ。ギターは多重録音なので、一人のギタリストによる作品なのに、立体的で奥行きがあって、その点ではまるでエンヤみたいでもある。この演奏はとても気に入っていて、鍵盤楽器版以外では、私が最もよく聴いている録音である。


アコーディオン版(アコーディオン:ヤンネ・ラッターヤ演奏)


J.S.バッハ:ゴルトベルク変奏曲BWV988

J.S.バッハ:ゴルトベルク変奏曲BWV988

古き良き時代へのノスタルジー。レトロな音色。人の温かみをを感じるような演奏だ。アコーディオンの響きがパリっぽい。パリのストリートミュージシャンが、雑踏のなかで演奏していそうな風情だ。モンマルトルの丘とか、ムーラン・ルージュなど、「いかにもパリ」という風景が似合いそうだ。アコーディオン版のバッハは、ドイツ人ではなく、フランス人として生まれてきた作曲家のようだ。


他にも『ゴルトベルク変奏曲』の演奏には、弦楽三重奏版や、サックス版なんてものもあり、それぞれに雰囲気があって、聴く価値がある。この曲の懐の広さだと思う。