USHINABE SQUARE

クラシック名盤・名曲と消費 生活 趣味

富士フィルム『X100T』を買った


富士フィルムのデジカメ『X100T』を買った。



『X100』シリーズと言えば、何と言っても、光学ファインダー(OVF)とEVFを自在に選択できる「ハイブリッドビューファインダー」だ。光学ファインダーは、昔のレンジファインダーカメラのようであるが、ファインダー内に、ISO感度、ホワイトバランス、シャッター速度などの撮影情報が表示され、撮影位置を示すフレームも焦点距離に応じて移動する。水準器まで表示可能だ。そしてEVFに切り替えると、最新鋭のミラーレスカメラとなる。EVFの映像は自然な写りなので、一瞬、光学ファインダー越しの実像と勘違いするほどだ。


昔のフィルムのコンパクトカメラを思わせるレトロな外観なのに、その中身は最新のテクノロジーであるというのが良い。『X100』シリーズは初代の『FinePix X100』が発売されたときから、いつか買おうと思っているうちに、買い時を逃し、『X100S』、『X100T』へと進化し、今年の2月には四代目である『X100F』が発表された。10万円以上という価格も、躊躇するポイントだった。それに私は他にもカメラは沢山持っていた。


『X100F』が発表されたというのに、『X100T』の値段はそれほど安くなっていない。迷っていた。そうこうしているうちに、(まともな値付けがされている)在庫も少なくなっているようだ。『X100T』も買い逃してしまうのか。焦っていた。私はある晩、オンラインショッピングで衝動的に、『X100T』をカートに入れ、クレジット決済をしていた。そして次の日には『X100T』が家に届いていた。(しかし2017年3月末現在、まだ品切れにはなっていないようである。急ぎ過ぎたか。)



『X100T』の購入後、店頭で、『X100F』を触ってみて、さらにクラシカルな雰囲気を増したシルバーの色合いに、やっぱり新型にすればよかったかと思ったが、考えてみると、2400万画素は私には要らない。それに、バッテリーの持ちも旧型の方が良い。そう強がっている。実際、迷った末に手に入れたカメラを、買ってから1か月以上経つのに、いまだに夜な夜なカメラバッグから取り出して触ってみて、納得している。本当に、『X100T』を手に入れ、私は幸福で、どこに出掛けるにも持って行っているくらいなのだ。



大阪に出掛けて行ったある日、写真を撮ることが目的というわけではなかったが、『X100T』をカバンに入れてきた。ヨドバシカメラに寄って、グランフロント、大丸へと私が大阪に行くときのいつものコースを歩いている時、カメラは首にぶら下げておいた。



平日の大阪駅は土日に比べると人が少ない。土日の午後などは、どこの店も混んでいて、喫茶店なども外まで人が並んでいるくらいで、ベンチでさえ座る場所にも苦労するくらいだが、平日なら、店内で本格的な珈琲を楽しむことだってできる。



人気の中華料理店も平日は空いている。『X100T』は目立たないので、テーブルに置いていても変に浮いたりしない。



35ミリの画角が私にとっては心地よい。昔、フィルムカメラで京セラの今はなきコンタックス『T3』を愛用していた時から(いまもそのカメラを大事に持っている)、35ミリは自分にとって標準の画角だった。風景を撮っても、人物を撮っても、花を撮っても、近景を撮っても、遠景を撮っても、巧い写真でも、下手な写真でも、35ミリはオールマイティーだ。もちろん、料理を撮っても、とても美味しそうに写っている。それはカメラの問題ではなく、単に私が食いしん坊だからか。


またある日には京都に行った。京阪電車で1時間弱。好きな本も持ってきていた。久しぶりに読書に最適な時間を確保できることの幸福感は、他に例えようがない貴重なものだ。



祇園四条京阪電車を降りて、路地に入っていく。町屋と石畳が一際目を引く、京情緒満点のエリア、祇園白川を歩く。まだ人通りの少ない時間帯で、私の首にはスマートフォンのネックストラップではなく、『X100T』がぶら下がっている。



白川を挟んで右手には老舗高級旅館『白梅』。ちょうど梅が見頃を迎える季節だった。梅が目印だから『白梅』なのか、と当たり前のことに納得する始末である。



四条大橋を渡って、河原町方面に出る。木屋町通手前の先斗町通りを右に曲がる。蛇くらいしか通れないような細い路地の左右に、料亭が並んでいる。それらの店が出す納涼床は京都の夏の風物詩となっている。就職したときに、一度、両親に親孝行をしようと京料理を食べさせたことがあったが、結構な値段だった。この通りを歩くといつもその時のことを思い出す。



こういうセンス。京都らしさを演出するセンスが憎い。



そんな感じで、最近、私はどこへ行くにも『X100T』を携えている。35ミリの単焦点なので撮れる写真に限界があるが、そんなことはお構いなしだ。被写体に対してレンズの焦点距離を選択するのでなく、このカメラで撮れる範囲に収める。この画角で手を打つ。割り切り。単焦点の楽しさを思い出した。



買ってから1か月以上経つが、こんなに幸福な気持ちになれた買い物は久しぶりだ。